解決事例
更新日2020年8月21日

鎖骨骨折で変形障害。弁護士による異議申立てで12級5号認定の事例

執筆者:弁護士 木曽賢也 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)


※実際の事例を題材としておりますが、事件の特定ができないようにイニシャル及び内容を編集しております。
なお、あくまで参考例であり、事案によって解決内容は異なります。

ご相談者Hさん

受傷部位鎖骨(鎖骨骨折)
等級12級5号(鎖骨の変形障害)
ご依頼後取得した金額
680万円

内訳
損害項目 弁護士によるサポート結果
傷害慰謝料 140万円(入院半月、通院6か月 ※赤い本別表Ⅰ)
休業損害 約100円
後遺障害逸失利益 なし→270万円(年収×14%×10年)
後遺障害慰謝料 なし→261万円(裁判基準の90%)
過失相殺 10%
結果 200万円(異議申立前)→680万円(異議申立後)※治療費を除く受領額

※赤い本とは
日弁連交通事故相談センター東京支部が発行している「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」という本の通称です。赤い本には、傷害慰謝料について、裁判基準(裁判をした場合の基準)が記載されております。弁護士が介入しない場合は、傷害慰謝料について、保険会社は自賠責基準や任意保険会社基準といった裁判基準よりも低い金額を提示してくるのが一般的です。弁護士が介入した場合は、裁判基準を前提に傷害慰謝料を交渉することができます。

参考:青本・赤い本のご紹介|公益財団法人 日弁連交通事故相談センター

 

状況

解説図Hさんは、自動車で信号機のない交差点を直進していたところ、一旦停止線のある道路から交差点に飛び出してきた自動車と出会い頭で衝突する交通事故にあいました。

Hさんの自動車は、相手方がかなりスピードを出していたこともあり、そのまま交差点の角まで押しやられ、交差点そばにある資材置場に突っ込んでしまいました。

この交通事故で、Hさんの乗っていた自動車は前方が大きく損壊して、原型を留めていない状況でした。

交通事故後、Hさんはすぐに救急車で病院に搬送され、レントゲン検査の結果、右側の鎖骨を骨折していると診断されました。

事故翌日、自宅近くの整形外科を改めて受診したところ、転位があるため、手術をした方がよいと指摘されました。

そのため、町の整形外科から救急指定病院に紹介状をもらい、入院してプレートを挿れる手術を受けました。

そして、プレートを挿れて退院したのち、自営業で今後の仕事の補償に不安を感じたHさんは弁護士に相談することにしました。

 

弁護士の対応

鎖骨負傷Hさんは、弁護士に相談時点では、交通事故にあって間もないこともあり、当面手術後のリハビリが必要な状態でした。

そのため、自営業を休まざるを得ない状況でしたので、Hさんから依頼を受けてすぐに状況を相手方保険会社に説明し、休業損害の内払いをしてもらえるよう交渉を行いました。

その際、必要となる確定申告書や月別の売上票といった帳簿書類をHさんにご準備してもらい、職場復帰するまで毎月請求して、保険会社から支払をしてもらうことができました。

その後、半年ほど経過した段階で、鎖骨に挿れていたプレートを除去する手術を受けました。

この手術後も1か月程度リハビリのために仕事を休まざるを得ないということでしたので、あらかじめ手術の段階で保険会社に弁護士から伝え、この際もスムーズに休業損害の内払いをしてもらいました。

自営業者の休業損害について
自営業者の休業損害については、保険会社とよく争いになりやすいところです。
休業損害の計算方法は、1日あたりの基礎収入 × 休業日数 となります。
1日あたりの基礎収入を算出するためには、原則として事故前年の確定申告書が必要となります。
また、家賃や光熱費など一定の固定費については、損害として計上できる場合があります。
加えて、休業損害の補償は、生活を支えるものであるため、Hさんのケースのように月毎に内払いをしてもらえることもできます。

その上で、Hさんには骨折後の痛みや変形が残っていましたので、後遺障害診断書を医師に作成してもらい、後遺障害の手続を行いました。

ところが、1度目の請求では、非該当という結果でした。

そこで、骨折した鎖骨のレントゲン画像とプレート除去後のレントゲン画像を別の医師に診てもらい、意見をもらうとともに、Hさんの裸体の写真を改めて撮影し直しました。

その上で、改めて弁護士が異議申立書を作成し、その中で、鎖骨の変形箇所を具体的に指摘し、裸体になった状態で確認できるから12級5号に該当すると主張しました。

すると、1度目は非該当の結果だったにもかかわらず、異議申立てにより、改めて精査した結果、弁護士の指摘どおり、12級5号に該当すると回答がなされました。

この異議申立ての結果を踏まえて、相手方保険会社と示談交渉を行いました。

保険会社は、鎖骨の変形骨折では労働能力に影響はないから逸失利益は認められないと主張していました。

これに対し、弁護士は、Hさんの業務での具体的な不都合を聞き取った上で相手方保険会社に説明を加えるとともに、変形障害の等級認定には疼痛の障害も含めて評価されている点も指摘し、逸失利益が認められないのはHさんのケースでは不合理であると主張しました。

保険会社はその後5%の喪失率で5年間の補償という代案を提案してきましたが、弁護士はこれに応じず、12級という等級に応じた補償を粘り強く求めました。

最終的には、14%の喪失率で10年間の補償をしてもらうことができ、慰謝料は裁判基準の90%でしたが、逸失利益が当初に比べ大幅に認められたために、示談をすることで解決に至りました。

鎖骨の変形障害については逸失利益が否定されるケースが少なからずあることもある中で、12級の等級に応じた喪失率で10年間の補償を得られたのはよかったです。

 

弁護士のアドバイス

同じレントゲン画像を提出しても、Hさんのケースのように1度目は非該当、2度目は12級5号の認定という形で、異なる結論が出ることが実際上あります。

こうしたケースがある以上、変形障害については、諦めずに異議申立てを行ってみる可能性はあるかと思います。

ただし、異議申立てが認められるケースが少ないことも確かです。

 

 


なぜ交通事故は弁護士選びが重要なのか

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