弁護士コラム

認知症ではいかい中の事故-家族は責任を負うのか?

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

df3549029cb今般、高齢化社会といわれ、高齢の家族と同居している人も少なくないと思います。

なかには、高齢となった家族が認知症になり、その介護で大変な苦労をされている方もいらっしゃると思います。

2025年には、5人に1人が認知症になるといわれている昨今、家族の認知症の問題は他人事ではありません。

 

ちょっと目を離した隙に、認知症の家族の姿が見えなくなってしまい、あわててその行方を探した、なんて経験をされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、それが電車事故などの事故につながった場合、残された家族に思わぬ責任が生じることがあります。

来月1日、認知症ではいかい中の男性が電車にはねられ死亡した事案で、振り替え輸送などを迫られたJR東海が遺族に損害賠償請求した事件の、最高裁判断が示される予定です。

この事案では、地裁では、男性の妻(当時85歳)と長男の責任を認め、約720万円の支払いを命じました。高裁では妻にだけ責任を認め、約360万円の支払いが命じられています。

そして、今回、最高裁がこの事案について判断を示すことになり、注目が集まっています。

そもそも、遺族に認められる責任とはどのようなものでしょうか。

 

これはいわゆる「監督義務者の責任」と呼ばれるものです。

民法では、加害者が責任無能力者である場合に、その監督義務者に責任を認める規定があります。

もちろん監督義務者の責任も無制限に認められるわけではなく、①監督義務を怠らなかった場合、あるいは②監督義務を怠らなくても損害が生じたであろう場合は責任を負いません。

もっとも、監督義務はきわめて広汎かつ包括的に認められるものであるため、②の反論が認められることはほとんどありません。

それでは、①監督義務を怠らなかったと主張したい場合、その前提として、監督義務者が今回のような事態になることを具体的に予見できたかどうかが重要なポイントになります。男性の日々の健康状態などを考慮したうえで、監督義務者らに具体的な予見が可能だったかどうかが判断されます。

また監督義務者自身の過失を理由に、一般の不法行為責任が認められることもあります。

今回の事案では、男性と妻が2人となり、妻がまどろんで目を瞑っているときに男性が家を抜け出し、事故が起きてしまいました。地裁は、このとき妻が目を離してしまったことを過失とし、妻に一般の不法行為責任を認めました。

もっとも、高裁では、妻は一般の不法行為責任でなく、監督義務者の責任のみが認められています。

この事件では、男性は資産家で、老人ホームに入所したりヘルパーを雇う金銭的余裕があったにもかかわらずそれらを利用していなかったことも事情として影響しているともいわれます。たとえそのような事情があったとしても、認知症の人の予測不可能な行動を、どこまで予測し、監督するかは、非常に難しい問題です。認知症の人の行動により、あまりに厳しい責任を家族に負わせると、認知症の患者は最低限の自由も奪われてしまうでしょう。
監督義務者に責任が認められるかいなかは、個々の事情により異なりますが、これから出る最高裁の判断が今後先例となり、重要な意義を持つことは間違いありません。

 

 


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