弁護士コラム

自賠責では認定されなかった後遺障害が訴訟で14級と認められた事例

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

交通事故に遭い、治療を継続したものの痛みが残存したり、関節が動かしづらくなったりしてしまった場合には、後遺障害の申請を行います。

この記事では、自賠責保険の審査で後遺障害に認定されなかったものの、裁判をすることで後遺障害に認定された裁判例の紹介とともに、後遺障害に認定されなかった場合の対処法を解説しています。

 

この記事でわかること

  • 後遺障害に認定されなかった場合の対処法
  • 裁判で認定が覆り後遺障害が認定された裁判例のポイント
  • 異議申し立ての概要
  • 紛争処理機構への申し立て方法

 

 

自賠責で認定されなかった場合どうすればいい?

自賠責保険に対して、後遺障害の申請を行って、何の等級にも認定されないことを「非該当」といいます。

「非該当」という結果になれば、保険会社との示談交渉の中で、後遺障害が残存していることを前提に示談することは極めて困難です。

保険会社は、自賠責保険が非該当の結果を出している以上、後遺障害はないものとして、示談交渉に臨んできます。

こうした場合に、認定を覆し、後遺障害を認めてもらうための手段としては、以下の方法があります。

  1. ① 異議申し立てをする
  2. ② 紛争処理機構に申立をする
  3. ③ 訴訟提起する

後遺障害「非該当」の結果に納得できない場合には、上記の方法をとることになります。

手続きの流れとしては、異議申し立てを行って非該当であれば、紛争処理機構に申立を行います。

紛争処理機構でも非該当の場合は、訴訟提起をするという流れです。

もっとも、必ずしもこの通りの流れである必要はなく、異議申し立てをせずに、紛争処理機構への申立てをすることは可能ですし、異議申立ても紛争処理機構への申立てもせずに訴訟提起することも可能です。

 

 

自賠責で後遺障害認定されず訴訟で14級と認められた事例

以下で紹介する裁判例(平成29年8月9日さいたま地判)では、自賠責保険で後遺障害が認定されなかったものの、裁判においては、後遺障害14級9号が認定された事例です。

 

事案の概要

事故態様は、被害者が赤信号で停車していたところに後方から追突されたというものです。

被害者はこの事故により、骨折や脱臼などはありませんでしたが、頚椎捻挫による首の痛みなどが残存することになりました。

こうした痛みなどが、後遺障害に該当するとして、自賠責保険に後遺障害申請を行いましたが、後遺障害に認定されなかったため、訴訟提起した事案です。

 

判決の概要

判決では、以下のポイントを踏まえて、後遺障害14級9号を認定しています。

 

①事故翌日から交通事故による外傷の治療を継続していること

裁判例は、被害者が事故後、緊急搬送はされていないものの、一時帰宅した後、頚部痛などの症状を自覚して、事故の翌日に病院を受診し、頚部捻挫の診断を受け、その後、同様の症状で継続して通院し、継続的に治療を受けていたことを指摘しています。

 

②事故の規模が大きいこと

裁判では、加害者側の事故直後の被害者の痛みは重大ではなかったという反論がなされていました。

これに対して、裁判例は、被害者の車のリヤ・バンパ及び左右テールランプが割損する、バックドア及びバックパネルが潰れる、押し込みにより左リヤ・フェンダに凹損が生じる、内板骨格部のリヤ・フロアが潰れる等の損傷を負ったことが認められるから、加害者車両の追突速度は特定できないものの、上記追突により被害者の身体にも相当強い衝撃があったことなどを理由に、上記の加害者側の反論を認めませんでした。

 

③治療終了日において症状が残存していたこと

被害者は、整骨院と病院に通院していましたが、整骨院の施術証明書や病院の診断書の内容を見ると、症状が十分に改善していなかったことが分かることを裁判所は指摘しています。

 

④被害者の症状が常時生じていること

裁判所は、被害者の痛みや痺れは常時あり、冬場や夜間に増悪することを指摘しています。

裁判所は、以上の事情を踏まえて、被害者の首の痛み等は「局部に神経症状を残すもの」に該当するとして14級9号の認定を行いました。

 

 

異議申し立ての方法

後遺障害の認定がされなかった場合には、異議申し立てをすることができます。

異議申し立ては、再度、自賠責保険に後遺障害の審査をしてもらうために行うものです。

異議申し立てをするにあたっては、異議申し立て書と後遺障害の認定に有利となる新たな証拠を自賠責保険に提出する必要があります。

新たな証拠はなくても異議申し立て自体は可能ですが、認定を覆すことは難しいでしょう。

異議申し立ては、申し立て期間内であれば、何度でも行うことは出来ますが、同じ主張と同じ証拠で申し立てを繰り返し行っても認定が変わることはありません。

合わせて読みたい
異議申し立てのポイント

 

 

紛争処理機構への申し立て方法

紛争処理機構は、自賠責保険(共済)が下した判断に誤りがないかどうかを審査する機関です。

参考:紛争処理機構

申請書類

申請にあたっては、以下の書類が必要となります。

  • 紛争処理申請書
  • 別紙(「紛争処理を求める事項」について具体的に記載したもの)
  • 同意書
  • 交通事故証明書
  • 保険会社又は共済組合からの通知書(回答書)
  • 証拠書類、その他参考資料

※紛争処理機構は、自賠責保険(共済)が下した判断の成否を審査する機関なので、自賠責保険(共済)に提出していない新たな証拠は提出することはできません。

 

申請先

申請先は、大阪支部あるいは東京本部に申請することになります。

近畿、中国、四国、九州・沖縄は、大阪支部です。

それ以外の地域は、東京本部に申請することになります。

 

申請費用

申請の費用は無料です。

ただし、資料を揃えるための費用や郵送費用などの実費は、被害者が負担しなければなりません。

 

紛争処理機構への申し立てのポイント

紛争処理機構への申し立てにあたっては、自賠責保険(共済)の判断が誤っていることを具体的に説明しなければなりません。

したがって、まず、自賠責保険(共済)がどのような理由で認定しなかったのかを分析する必要があります。

自賠責保険(共済)の事実認定に誤りがないかどうか、判断過程において矛盾がないか、重要視すべき事実を軽視し、重要でない事実を重要視していないか等、既に提出済の証拠と認定理由を見比べながら分析する必要があります。

こうした分析を踏まえた上で、自賠責保険(共済)の判断が誤っていることを具体的に論証していくことになります。

このように、紛争処理機構への申し立ては、被害者自身で行うことは相当に難しいので、弁護士に相談されることをお勧めします。

 

 

まとめ

交通事故による症状が残存しているにもかかわらず、後遺障害に認定されないのは本当に残念なことです。

適切な認定を受けるためにも、適切な後遺障害申請、異議申し立てを行わなければなりません。

自分では、どうしていいか分からないという場合には、専門の弁護士に相談されることをお勧めします。

 

 


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