弁護士コラム

特殊塗装を施した車両の損害賠償事案

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

事案の概要

車の画像「キャンディー・フレーク塗装」という特殊な塗装を施された被害車両が、駐車中加害車両に追突され、後部の左クォーターパネルに10数センチメートルの擦過痕が生じた事故で、塗装による補修費用が争われた事案。

 

判旨

裁判のイラスト1.原審判旨
「非補修部分と同様の色調ないし光沢を部分的に再現することや、擬似的な部分塗装とぼかし塗装などの技法を組み合わせることによって補修部分と非補修部分との色調ないし光沢の違いを解消することは技術的に極めて困難である」としてキャンディー・フレーク塗装による車体全体の再塗装の費用の損害賠償を認めました。

2.控訴審判旨
被害車両の塗色が特別な色で色合わせが困難であるとしても、同じ色でも面が切り替われば見え方が変わることを踏まえれば、隣接したパネルへ広範囲にぼかし塗装の範囲を取ることで、最大にみても、同一面である左側面の全範囲(左フロントフェンダ、左フロントドア、左リアドア、左クォーターパネル部分)を塗装することで足り、「その費用も3コートパール塗装に要する費用と同程度であるというべき」として、車体左側部分の再塗装の費用の損害賠償を認めました。

補足説明

この裁判は、自動車の修理をするときの塗装の範囲は、車両全体の再塗装が認められるのか(第1審判決)、修理部分とその付近だけの部分塗装までしか認められない(控訴審判決)という争いでした。

車両の損傷について、「修理が相当な場合、適正修理費相当額が認められる」とされ(赤い本2016年上巻215頁)ています。

自動車が破損した場合、その修理した部分に塗装をしなければなりません。どこまで塗装できるかという塗装の範囲については、損害の拡大防止という観点から部分塗装が原則とされています。現在では塗装技術が向上し、修理した部分とその付近の塗装をすれば、他の修理をしてない部分との色の違いが目立つことがありません。

したがって、車両の損壊が車両の一部分に限定されていた場合修理した箇所とその周辺部分の塗装は認められますが、修理後再塗装した箇所と再塗装をしていない箇所の色むら等を理由とした全塗装は認められません。

しかし、車両への全塗装が常に認められないわけではありません。事故によってバッテリー液が車両全体に飛び散り、塗装がまだら状になってしまった事案では車両の全塗装が認められました(東京地判H 1.7.11)。

弁護士西村裕一イラスト裁判例では部分塗装を原則としていますが、特別な事情がある場合には全塗装を認めています。

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