解決事例
更新日2021年10月20日

年金生活だが後遺障害逸失利益を増額できた高齢者の事例

執筆者:弁護士 木曽賢也 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)



※実際の事例を題材としておりますが、事件の特定ができないようにイニシャル及び内容を編集しております。
なお、あくまで参考例であり、事案によって解決内容は異なります。

ご相談者Aさん

受傷部位右大腿骨大転子骨折、左膝内側側副靭帯損傷
等級併合14級(右股関節痛14級9号、左足股関節痛14級9号)
ご依頼後取得した金額
約200万円

内訳
損害項目 弁護士によるサポート結果
傷害慰謝料 約95万円(裁判基準90%)
後遺障害逸失利益 約12万円(3年間、5%、1週間のうち2日間は家事労働を制限されると評価)
後遺障害慰謝料 約100万円(裁判基準)
結果 約200万円(既払金約120万円を除く)

 

後遺障害等級併合14級の認定を受けたAさん

解説図Aさんは、横断歩道を歩行中、左折してきた普通自動車にはねられるという交通事故に遭い、右大腿骨大転子骨折、左膝内側側副靭帯損傷などの大けがを負い、救急搬送されました。

Aさんは、約20日間の入院を経て退院し、交通事故から約4か月後に症状固定となりました。

その後、Aさんは右股関節や右膝関節に痛みが残ったことから、保険会社が後遺障害申請を行ったところ(事前認定といいます。)、後遺障害等級併合14級の認定を受けることができました。

Aさんは、後遺障害等級や賠償額について、保険会社の言うままに示談を進めることに不安を感じたため、弁護士に依頼しました。

 

弁護士の対応

解説図Aさんは、後遺障害申請を保険会社に任せていたため、14級という後遺障害等級が妥当なものなのか、不安に感じていました。

そこで、弁護士は、Aさんが通院していた整形外科などからMRI画像などを取り寄せ、弊所の連携医師に、後遺障害等級の妥当性について確認してもらうこととしました。

具体的には、診断書やMRI・レントゲン画像を連携医師に確認してもらい、Aさんの訴えていた症状が適切に後遺障害として評価されているか、より高い後遺障害等級に該当する可能性はどのくらいあるか、などを確認しました。

その結果、後遺障害等級併合14級という評価は妥当なものであると判断できました。

そこで、弁護士は示談交渉に移ることにしました。

後遺障害がある場合、賠償を受けられる項目として、逸失利益という項目があります。

逸失利益とは、交通事故による後遺症が残ってしまった場合に、その後遺症が仕事の能率を下げ、支障をきたすことで、収入が減少する、あるいは得られなくなるという部分に対する補償をいいます(詳しくはこちらをごらんください。)。

ところが、Aさんは70歳後半と高齢で、年金給付のみで生活していたことから、事故による減収はありません。

そのため、保険会社は、Aさんの後遺障害逸失利益は0円であると主張してきました。

しかし、弁護士は相談の際に、Aさんが息子さん夫婦と同居しており、週2日間程度、お孫さんの塾の送迎や料理などの家事労働を行っていたこと、交通事故に遭ってからはそのような家事を満足にできなくなったことなどを聞き取っていました。

そこで、弁護士は、Aさんのこのような家事労働の制限に対しても、適切な補償がなされるべきと考え、Aさんを主婦(主夫)とみなして、逸失利益を主張することとしました。

弁護士が、Aさんが事故前に行っていた家事労働の内容や、事故後に家事労働を全くできなくなったことなどを詳細に主張し、粘り強く交渉した結果、当初はゼロ回答であった後遺障害逸失利益について、約12万円を獲得することができました。

 

 

弁護士のアドバイス

後遺障害等級の妥当性の判断

Aさんの事例のように、すでに事前認定で後遺障害等級が認定されている場合でも、その認定等級が妥当かどうかチェックする必要があります。

チェックの方法は様々です。例えば、後遺障害の申請をすれば、認定結果についての理由が記載された書面が交付されます。

まずは、そこに記載されている理由を把握し、経過診断書・後遺障害診断書・カルテ・被害者の方が訴えている自覚症状と整合するか検証するなどの方法があります。

仮に認定等級に疑義が生じた場合は、異議申立ての手続をすることもあります。

 

高齢者の逸失利益の問題

本文中でも説明したとおり、逸失利益とは、交通事故による後遺症が残ってしまった場合に、その後遺症が仕事の能率を下げ、支障をきたすことで、収入が減少する、あるいは得られなくなるという部分に対する補償をいいます。

したがって、年金生活者など、交通事故に遭った後、収入が減少しなかった場合は、原則として逸失利益が認めらないことになります。

この点、専業主婦の方であれば、後遺障害により家事労働が一定程度制限されることから、その制限分を逸失利益として評価することができます。

しかし、家事労働は、他人からみてどの程度制限されるか不明確な場合が多く、単に主婦であると主張するだけでは、逸失利益の賠償を認めてもらえません。

家事労働の制限を理由として逸失利益の賠償を求める場合、事故前の家事労働の内容と、事故後にそれまでできていた家事がどの程度できなくなっていたかを詳細に説明する必要があります。

また、一人暮らしの場合は家事従事者としての逸失利益は認められないため、弁護士は、家族構成を聞き取り、相手方に主張します。

特に、Aさんのように、高齢男性の場合は、家事労働の制限を理由として逸失利益を認めてもらうのは極めてハードルが高いといえます。

今まで説明してきたとおり、年金生活者などで事故による収入の減少が観念できない場合、逸失利益の賠償を受けるのは困難である場合が多いといえます。

しかし、後遺障害が残っていれば、それまで当たり前にできていたことが満足にできなくなるのであり、逸失利益がゼロと言われてもなかなか納得できないのは当然のことです。

高齢者の逸失利益を主張する事案では、粘り強い交渉が必要です。

専業主婦の逸失利益について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 


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