後遺症の逸失利益はどのように計算する?
交通事故等の人身障害事故によって後遺症が残った場合、仕事に支障が出て収入が減ってしまうことがあります。
このように人身障害事故による後遺症がなかったならば、本来得ることができたはずの利益のことを後遺症による逸失利益といいます。
後遺症による逸失利益の算定にあたっては、労働能力の低下の程度、収入の変化、将来の昇進・転職・失業等の不利益の可能性、日常生活上の不便等を考慮して行います。
また、将来長期間にわたって発生する収入の減少を一時金として算定することになるので、中間利息を控除する必要があり、実務では、ライプニッツ係数を用いて算定されています。
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数 = 後遺症による逸失利益
以下、基礎収入や労働能力喪失率、労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数についてご説明します。
目次
基礎収入
基礎収入については、給与所得者、事業所得者、会社役員、家事従事者、無職者、外国人に分けてご説明します。
給与所得者の場合
原則として事故前の給与額(賞与込み)を基礎として算定します。
もっとも、現実の収入額が賃金センサスの平均額を下回っている場合、将来賃金センサスの平均賃金程度の収入を得られると認められれば、賃金センサス平均賃金が基礎収入金額とされることもあります。
また、若年労働者(事故時概ね30歳未満)の場合には、学生との均衡もあり、全年齢平均の賃金センサスにより算定されることもあります。
将来の昇給については、公務員や大企業労働者などのように給与規定、昇給基準が確立されている場合には考慮されることもあります。
事業者の場合
基礎収入額は、原則として事故前年の確定申告所得額とされます。
確定申告を上回る収入があったと主張することも可能です。
もっとも、現実の収入状況が実際に確定申告所得額を上回っていることを立証しなければならず、裁判例では、かなりの確実性のある立証を求める傾向にあるので、主張が認められることは容易ではありません。
また、収益が資本利得や家族の労務の総体の上に形成されている場合には、事業収益の中に占める被害者個人の寄与分が逸失利益の算定基礎となります。
確定申告を全くしていない場合であっても、直ちに無収入として逸失利益が否定されるわけではなく、相当の収入があったことが認められるときには、賃金センサスの平均賃金などを参考に基礎収入額を決めることもあります。
会社役員の場合
会社役員の報酬には、労務提供の対価に相当する部分と利益配当の実質を持つ部分がありますが、利益配当的部分は、休業により失われないことから、基礎収入額の基礎とはされません。
したがって、労務対価部分のみが基礎収入とされることになります。
家事従事者の場合
家事従事者とは、性別・年齢を問わず、家庭のために主婦的労務に従事する人のことです。
家事従事者が家事労働により現金収入を得ていなくても、その家事労働を金銭的に評価して、損害の算定をすることができます。
算定にあたっては、女性労働者の平均賃金(賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計の全年齢平均賃金または年齢別平均賃金)により、基礎収入を算定します。
家事に従事しつつ、パートタイマー等で収入を得ている場合には、その収入が平均賃金を超えていれば、その実収入額により、平均賃金を下回る場合には平均賃金により算定することが多いです。
無職者の場合
幼児など年少者・学生の場合
原則として、賃金センサスの平均賃金額が基礎収入額とされます。
女子年少者は、女性労働者の全年齢平均賃金ではなく、男女を含む全労働者の全年齢平均賃金で算定するのが一般的です。
大学進学前であっても、大学進学が見込まれる場合には、大卒の賃金センサスによる基礎収入の算定が認められる場合もあります。
高齢者
高齢者であっても、就労の蓋然性があれば、賃金センサスの平均賃金を基礎収入とされる場合もあります。
失業者
労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性が認められれば逸失利益は認められます。算定にあたっては、失業前の収入を参考とします。
もっとも、失業以前の収入が平均賃金よりも低い場合、平均賃金が得られる蓋然性があれば、男女別の賃金センサスによって算定されることになります。
外国人の場合
永住資格あるいは、在留資格の更新が確実に認められる場合には、通常の日本国籍者と同様の考え方で算定します。
不法滞在や在留資格の更新が確実でない被害者の場合は、事故後一定期間経過後は、日本国外で就労するものとしてそこで得られるであろう収入水準を推定して基礎収入とすることになります。
労働能力喪失率
労働能力喪失率は、国が定めた労働能力喪失率表に基づいて算定されます。
もっとも、事案により具体的な事情は異なりますから、形式的に当てはめて考えるのではなく、被害者の職業、年齢、性別、後遺症の部位、程度、事故前後の稼働状況等を総合的に判断して具体的にあてはめて評価されることになります。
労働能力喪失率表
第1級 | 第2級 | 第3級 | 第4級 | 第5級 | 第6級 | 第7級 |
---|---|---|---|---|---|---|
100% | 100% | 100% | 92% | 79% | 67% | 56% |
第8級 | 第9級 | 第10級 | 第11級 | 第12級 | 第13級 | 第14級 |
45% | 35% | 27% | 20% | 14% | 9% | 5% |
参照:別表Ⅰ 労働能力喪失率表|労働省労働基準局長通達(昭和32年7月2日基発第551号)
労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
労働能力喪失期間
労働能力喪失期間の始期は、後遺障害の症状固定日です。
未就学者については、原則として高校卒業時とされますが、大学進学の蓋然性が認められる場合には大学卒業時となります。
労働能力喪失期間の終期は、原則として、被害者の稼働上限年齢(通常67歳)までとして扱われますが、障害の内容、部位、年齢、職業、地位、健康状態などによって異なる期間で算定されることもあります。
裁判例では、むち打ち損傷につき、12級の場合は期間5年から10年、14級の場合は5年以下で処理される例が多いです。
ライプニッツ係数
逸失利益は被害者が将来にわたって得られたはずの利益ですが、その金額を現時点で受け取ると、本来受け取ることができる時点までに発生する利息分も被害者が取得することになります。
ライプニッツ係数は、このような中間利息を控除して、一時金に変算するのに用いられる係数です。
その他の損害についての計算方法
