解決事例
更新日2021年10月21日

バイク事故でPTSDと診断。後遺障害と休業損害が認められた事例

執筆者:弁護士 木曽賢也 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)
バイク事故で後遺症

※実際の事例を題材としておりますが、事件の特定ができないようにイニシャル及び内容を編集しております。
なお、あくまで参考例であり、事案によって解決内容は異なります。

ご相談者Zさん

受傷部位右肘(右肘頭骨折)、膝(脛骨骨挫傷)、PTSD
等級併合14級(右肘痛14級9号、下肢痛14級9号、PTSD14級9号)
ご依頼後取得した金額
350万円(自賠責保険金を含む)

内訳
損害項目 弁護士によるサポート結果
傷害慰謝料 250万円
休業損害 約750万円
後遺障害慰謝料 110万円(裁判基準14級)
後遺障害逸失利益 130万円(年収×5%×5年、裁判基準)
過失相殺 15%→10%

 

バイク事故で後遺症が残ったZさん

解説図Zさんは、ご主人の運転するバイクの後ろに乗っていました。

片側2車線の道路を直進していたところ、路地に抜けようと右折してきた対向車線の自動車とぶつかってしまう交通事故にあいました。

このとき、Zさんの乗っていたバイクは勢い余って、数メートル転がって、Zさんも転倒してアスファルトに体を強打しました。

すぐに救急車で搬送されて、救急病院で検査を受けました。そこで、右肘の骨が骨折しているとして、入院となり、事故の翌日に手術を受けました。

退院後は、自宅近くの整形外科に転院して、治療を継続していました。

この治療と並行して、交通事故から2週間もしない段階でZさんは、事故のことを思い出してしまったり、眠れないという症状が出てきました。

そのため、看護師であったZさんは、すぐに心療内科を受診しました。

当初は、カウンセリングと睡眠導入剤を処方してもらって経過を観察していましたが、なかなか症状が改善しなかったため、紹介状をもらって、各種検査を受けました。

その検査の結果、PTSDと診断されました。

交通事故以前は看護師として、夜勤もこなしていましたが、骨折して入院したり、不眠の症状でとても働ける状況ではなかったため、仕事は休業を余儀なくされました。

この間の休業補償は、勤務先に休業損害証明書をその都度書いてもらって、相手方の保険会社から支払をしてもらっていました。

整形外科での治療は、交通事故から10か月ほどしたところで症状固定となり、主治医から後遺障害診断書を作成してもらい、後遺障害の申請を行いました。

その結果、骨折した右肘痛と膝をはじめとした下肢の痛み、しびれの症状については、それぞれ14級9号に該当すると認定されました。

他方で、PTSDの症状は依然として改善することがなかったため、2週間に1回のカウンセリングと薬の処方は続いていました。

ところが、整形外科の方が症状固定と診断された頃から、相手方保険会社から、治療の終了について、たびたび話が及んでいました。

Zさんは、「今の状態でとても心療内科の治療を終了することはできない。」と回答していたところ、相手方の保険会社が弁護士に依頼をしました。

弁護士から書面が突然届いて驚いたZさんは、これからどのように対応したらよいかわからなかったため、弁護士に相談することにし、交通事故を数多く取り扱っていると知人に紹介され、弁護士に相談に来られました。

 

 

弁護士の交渉で治療費の支払い継続、1年半近くの収入の満額補償に成功

弁護士は、Zさんから交通事故の状況とそれまでの治療経過、現在の不眠などの症状について、ご相談の段階でお話をうかがい、保険会社側にすでに弁護士がついていたこともあり、すぐに依頼を受けました。

そして、保険会社の弁護士に受任通知を送付し、これまでの診断書といった資料の送付を依頼するとともに、現在のZさんの症状からすれば、治療の継続が必要であるとして、引き続きの治療費の支払いを求めました

弁護士から交渉をしたことで、相手方の保険会社ももうしばらくは治療費の支払を継続するということになり、Zさんにはそれまでと変わらずに心療内科での受診をしてもらっていました。

ところが、交通事故から1年を経過したところで、休業損害の対応を終了すると通知をしてきました。

弁護士として、内払いの交渉をしましたが、これ以上の内払いは難しいという回答は変わりませんでした。

この段階で、弁護士としては、裁判所への仮処分申立ても検討していましたが、治療費については保険会社が支払を継続してくれていたことや治療の目処がなかなか立たなかったこともあり、Zさんとも相談して、治療に専念をしてもらいました。

しかしながら、1年半を経過した段階で、保険会社としてはPTSDについても症状固定と考えるとして、治療費の支払を停止するという対応をとりました。

主治医そこで、弁護士は、ZさんのPTSDの症状と今後の治療の見通しを判断すべく、主治医の先生に書面での照会をお願いしました。

すると、主治医の先生としては、あと半年弱は経過観察をする方針であるという回答をいただいたため、この照会書をもって、保険会社の弁護士と治療費の支払いについて交渉を継続しました。

そして、交通事故から2年弱の時点で、症状固定として、心療内科の主治医にも後遺障害診断書を作成してもらい、PTSDについて後遺障害の申請を行いました。

その結果、PTSDについて、検査をした上で診断されていることや2年近く継続して、心療内科での治療を行っていることを理由として、14級9号の認定がなされました。

この自賠責保険の結果を踏まえて、相手方の弁護士と示談交渉を行いました。

治療費については、PTSDの後遺障害の認定がなされたこともあって、2年分の治療費が補償されることになりました。

また、休業損害については、当初保険会社の弁護士は1年分のみと主張していましたが、後遺障害が認定されたこと、主治医も照会書の時点では、夜勤も含めた看護師の業務に完全に復帰するのは難しいと回答していることなどを理由に、さらなる補償を求めました。

最終的には賞与の減額分も含めて、700万円以上の補償がなされ、1年半近くの収入を満額補償してもらうことができました。

 

 

弁護士のアドバイス

照会書について

弁護士と医者Zさんのケースのように、治療費の一括対応で交渉するために、主治医に照会書という形で被害者の方の症状経過、治療の必要性などを伺うことがあります。

場合によっては、主治医と医師面談をすることもあります。

このような医療照会の結果によって、被害者の方に有利な事情が判明したら、当該事情をもとに、保険会社と交渉を行います。

その他には、後遺障害の異議申立てをする際、新たな証拠として照会書を提出することもあります。

照会書は、ある程度医学的な知識に精通した交通事故専門の弁護士が対応した方が好ましいと考えております。

 

賞与減額分の請求について

交通事故によって休業し、賞与を減額された場合は、休業損害の一環として、賞与の減額分も相手方に請求する余地があります。

賞与の減額分も請求する場合は、会社に賞与減額証明書を作成してもらい、保険会社に提出する必要があります(場合によっては、会社の賞与規定等も提出することがあります)。

 

交通事故とPTSD

ptsdPTSDについては、骨折といった器質的な変化がない症状のため、非器質性の精神障害と位置づけられています。

こうした非器質性の障害については、まさに、客観的な所見を見出し難いため、その評価が非常に困難とされています。

この点に関しては、アメリカの精神医学学会で採用されているDSM−ⅣとWHOが採用しているICD-10という基準が参考にされています。

また、非器質性の精神障害の特徴として、「いずれ治癒する」と考えられている点が挙げられます。

すなわち、器質的には異常がないため、治療を一定期間行えば、症状は改善するといわれているのです。

この点、「後遺障害 = 将来回復困難な障害」とのギャップもあり、PTSDで後遺障害が認定されるのは、他の後遺障害に比べてハードルが高くなっています。

今回、ZさんがPTSDとして、後遺障害が認定されたのは、バイク事故で大けがをしたという事故の程度と不眠やフラッシュバックの症状が事故後から2年近く残存し、その間、継続的に心療内科の受診を継続していたという点が理由だと考えています。

PTSDの該当可能性がある後遺障害は、9級、12級、14級です。

PTSDの後遺障害が認められたことは、保険会社の弁護士との交渉や、慰謝料や休業損害においてZさんに有利な事実になり、特に休業損害について700万円以上補償してもらったことは非常によかったです。

 

 


なぜ交通事故は弁護士選びが重要なのか

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