解決事例
更新日2020年1月29日

賃金センサスにより、逸失利益の補償を獲得した会社役員の事例

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

※実際の事例を題材としておりますが、事件の特定ができないようにイニシャル及び内容を編集しております。
なお、あくまで参考例であり、事案によって解決内容は異なります。

ご相談者Gさん

受傷部位頸部(外傷性頸部症候群 むちうち)
等級14級9号
ご依頼後取得した金額
315万円

内訳
損害項目 弁護士介入後
傷害慰謝料 90万円(通院8か月90%)
後遺障害逸失利益 約115万円(喪失率5%、5年間)
後遺障害慰謝料 110万円(裁判基準)
結果 315万円(自賠責保険含む)

 

状況

Gさんは、信号停止中に荷物を取ろうとして下を向いている間に、突然後続車から追突される交通事故に遭いました。

この事故は3台の玉突き事故であり、Gさんは先頭車両でした。

Gさんは、事故当日に整形外科を受診し、外傷性頸部症候群、腰椎捻挫と診断されました。

その後、Gさんは整形外科と整骨院での治療を継続しました。

治療期間中は、痛み止めをかかさずに処方してもらっていました。

8か月ほど治療をしたところで、症状固定となりましたが、その時点で頸部痛と左前腕から左手のシビレが残存していたため、後遺障害の手続をとったところ、14級9号の認定を受けました。

この結果を受けて、Gさんは弁護士費用特約に加入していたこともあり、適切な賠償額が自分ではわからなかったため、その後の交渉を弁護士に依頼したいと相談に来られました。

 

弁護士の対応

Gさんは、後遺障害の認定が妥当なのか、妥当であるとして、どの程度の賠償金額が妥当なのか疑問に思われていました。

弁護士は、依頼を受けてから、事故資料一式を保険会社から受領し、まず、後遺障害等級の妥当性を検討しました。

本件では、Gさんには骨折や脱臼などの傷害はありませんでした。

また、外傷性頸部症候群に関しても画像上、異常は明らかに認められませんでしたので、首の痛みについて、14級9号という等級は妥当な等級と言えました。

次に、弁護士は、賠償金額についての検討を行いました。

Gさんは、会社役員で今回の交通事故で仕事を休んでいましたが、給料の減額はなかったため、休業損害は発生していませんでした。

そのため、本件では、会社役員であるGさんに逸失利益が認められるかが主な争点になると考えられました。

この点に関して、弁護士は休業損害が発生していないからといって今後一切収入の減少がないとは限らないことや、会社役員といっても労務提供の部分が一定程度あるのが通常であり、逸失利益がゼロになるというのは不当であることを最初の段階で主張しました。

弁護士の当該主張も踏まえて、保険会社は賃金センサスの平均男性の年収をベースに補償する示談案を提案してくれました。

賃金センサスによる平均賃金は536万400円であり、Gさんの実際の収入よりはやや少なかったですが、労働能力喪失率5%、喪失期間5年という裁判基準での補償であったことから、合意を進めることになりました。

参照:別表Ⅰ 労働能力喪失率表|労働省労働基準局長通達(昭和32年7月2日基発第551号)

また、慰謝料に関しては、傷害慰謝料は裁判基準の90%ですが、後遺障害慰謝料に関しては、裁判基準100%での提示であったため、早期解決のために合意することとなりました。

 

弁護士のアドバイス

本件のように被害者が会社役員である場合、逸失利益が問題となります。

逸失利益は、後遺障害によって被害者が労働能力を喪失し、将来、減収することに対する賠償です。

会社役員の役員報酬は、一定額の決まった金額が支払われるため、事故に遭って働くことができなくなった後も、継続して同じ金額が支払われる場合には、逸失利益は生じないと言えます。

しかし、家族経営で、名目だけ役員として報酬を受けているような場合であれば、労働能力が減少した後も同額の報酬を受け取り続けるということも考えられますが、そうでない場合には、将来において減収する可能性は十分あります。

裁判例では、役員報酬を労務提供部分と利益配当部分に分けて、労務提供部分を基礎収入として逸失利益を認める傾向にあります。

労務提供部分とは、実際に役員が労働した結果、支払われている報酬の部分です。

利益配当部分とは、会社の業績によって配当される性質の報酬部分です。

ただし、労務提供部分と利益配当部分の区別は必ずしも明確ではありません。

具体的な労務提供の対価部分については、会社の規模(同族会社か否か)、利益状況、当該役員の地位・職務内容・年齢、役員報酬の額、他の役員・従業員の職務内容と報酬・給与の額の相違、事故後の当該役員及び他の役員の報酬の報酬額の推移、類似法人の役員の報酬の支給状況などを参考に判断することになります。

このように会社役員の逸失利益は、複雑な検討が必要となります。

 

 


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