交通事故裁判の流れ|費用や期間はどのくらい?【弁護士解説】

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

交通事故の賠償額は、多くの場合、示談交渉で決定しますが、示談交渉をしても賠償額がまとまらなかった場合に裁判を検討することになります。

裁判は示談交渉に比べて、時間もかかりますし、多大な労力もかかってしまうため、しなくていいのであれば、裁判をしない方がよいと思います。

しかしながら、加害者側の賠償の提示が不十分な場合には、交通事故にあわれた被害者の方が適切な補償をうけるために、裁判は必要不可欠な手段です。

この記事では、交通事故で裁判をした方が良いケースや、交通事故裁判のメリット・デメリットを解説していますので、ご参考にされてください。

交通事故の裁判とは?

交通事故の裁判には、民事裁判と刑事裁判があります。

民事裁判は、交通事故によって生じた損害(治療費、慰謝料など)を加害者や保険会社に請求する裁判です。

刑事裁判は、交通事故によって被害者を死亡させたり、傷害を負わせたことについて、刑事罰を与えるべきかどうかを審理する裁判です。

刑事裁判は、検察官が加害者を起訴した場合に行われる裁判であり、誰でも始められる裁判ではありません。

したがって、一般に交通事故の裁判という場合には、民事裁判を指すことが多いでしょう。

交通事故の民事裁判をする場合には、ほとんどのケースで事前に示談交渉が行われています。

示談交渉とは、被害者と保険会社(あるいは加害者本人)と賠償額について話し合うことです。

こうした示談交渉をしても、賠償額がまとまらなかった場合に民事訴訟を検討することになります。

次の項目で民事裁判をしたほうが良いケースについて紹介していますので、参考にされてください。

 

 

交通事故で裁判をした方が良いケースとは?

裁判をするかどうかは、弁護士等のアドバイスを受けた上で、被害者自身が決めることです。

絶対に裁判をしなければいけないというケースは存在せず、どのケースでも裁判をしないという選択肢もありえます。

ただし、以下のようなケースでは裁判をした方が良い場合があります。

過失割合で折り合いがつかない

過失割合は、賠償額全体に関わってきます

例えば、総損害額が500万円で過失割合が20%の場合、100万円が賠償額から差し引かれることになるのです。

賠償額の総額が大きくなればなるほど、過失割合による減額は大きくなっていきます

したがって、保険会社の提示する過失割合が不当であると考えられる場合には裁判をして裁判所に適正な判断をしてもらう必要があります。

もっとも、裁判をするにあたっては、裁判をすることで過失割合が有利になる見込みがあるのか見極めることが重要です。

過失割合を検討するにあたって重要なのは事故状況です。

そのため、ドライブレコーダーの映像、防犯カメラの映像、実況見分調書(警察が作成した事故状況図)などから事故状況を正確に把握する必要があります。

その上で、示談の段階で保険会社が提示している過失割合よりも有利になる見込みであれば裁判をするべきでしょう。

こうした見極めは交通事故を専門的に扱う弁護士でなければ難しいので、過失割合に納得いかず裁判を考えている場合には専門の弁護士に相談することをお勧めします。

 

保険会社が不十分な賠償額しか認めない

事案によっては、裁判基準を大きく下回る賠償額しか提示されないケースがあります。

そうした提示に合理的な理由がない場合には、訴訟提起して裁判基準満額での賠償を求めるべきでしょう。

保険会社と争いになりやすいのは逸失利益です。

逸失利益は、数十万円から数千万円になり、高額になりがちなので保険会社が争ってくることが多いのです。

例えば、骨の変形障害の後遺障害の場合、特に保険会社から争われます。

骨の変形傷害は、骨が変形していることに着目して認定される後遺障害のため、保険会社としては、骨が変形しているだけで、労働能力は喪失していないと主張してくるのです。

しかし、骨が変形しているということは、痛みも生じており、そのため働きづらくなっている可能性も十分考えられます。

にもかかわらず、保険会社が低額な逸失利益しか認めない場合には、訴訟提起すべきでしょう。

逸失利益の増額の見通しについては、被害者の就労状況や減収の有無、骨の変形の程度や痛みなどの症状の有無・程度などから判断することになります。

 

賠償額が高額である場合

裁判になった場合には、事故日を起算日として、遅延損害金(年3%、2020年3月31日以前の事故は5%)を請求することができます。

裁判をする場合には、準備期間を含めると1年以上かかることが多いため、賠償額が高額の場合には、相当額の遅延損害金が発生します

また、裁判所が認定する賠償額の10%分の金額を弁護士費用として請求することができます

つまり、賠償額が1000万円で、裁判が終結するまでに2年を要したケースでは、遅延損害金として60万円(2年分)、弁護士費用として100万円を支払ってもらうことができます。

保険会社は、基本的に遅延損害金と弁護士費用について、示談交渉の段階では支払いません。

したがって、賠償額が高額な場合には、遅延損害金と弁護士費用を獲得するために裁判をすることを検討すべきでしょう。

 

加害者が任意保険に加入しておらず賠償に応じない場合

加害者が任意保険に加入していない場合には、加害者本人と示談交渉をする必要があります。

しかし、不誠実な加害者は、示談交渉に応じず、請求に対して無視する者もいます。

こうした加害者から強制的に賠償金を回収するには、裁判をした上で、強制執行の手続きをとらなければなりません。

非常に腹立たしいことですが、示談交渉に応じない不誠実な加害者に対しては裁判手続きをとらざるを得ません

 

 

交通事故裁判のメリットとデメリット

メリット デメリット
  • 裁判基準での賠償額を獲得できる
  • 遅延損害金、弁護士費用を請求できる
  • 過失割合が有利に変更される可能性がある
  • 解決までに時間を要する
  • 賠償額が示談交渉時よりも減額される可能性
  • 必要な費用が増える

メリット

裁判基準での賠償額を獲得できる

保険会社は、示談交渉の段階では、自賠責基準や任意保険基準での賠償の提示しか行いません。

弁護士が介入した場合には、裁判基準(弁護士基準)を前提に交渉をしますが、保険会社は裁判になっていないことを理由に裁判基準の80〜90%の慰謝料しか認めないことがあります。

被害者が、裁判をせずに早期解決することを希望される場合には、裁判基準の80〜90%の慰謝料で合意することも考えられます。

しかし、時間を要することを気にしない場合には、裁判をすることで、裁判基準の100%の慰謝料を獲得することができます

 

遅延損害金、弁護士費用を請求できる

交通事故の賠償項目として「遅延損害金」と「弁護士費用」があります。

遅延損害金は、事故日を起算日として賠償額を支払済の日まで年3%(2020年3月31日以前は年5%)の割合の金額を請求することができます。

弁護士費用は、裁判所が支払額として認めた金額の10%の金額を請求することができます。

保険会社は、示談交渉の段階では遅延損害金と弁護士費用の支払いを基本的に認めません。

裁判をすれば、示談交渉時には認められなかった遅延損害金と弁護士費用を請求できるのです。

 

過失割合が有利に変更される可能性がある

示談交渉の段階では、被害者側が適切と考える過失割合でも、相手保険会社と加害者がその過失割合で納得して合意してくれなければ示談は成立しません。

しかし、裁判において被害者側の主張が認められれば、裁判官が判決で過失割合を決定してくれるので、加害者や保険会社の意向に関わらず、過失割合を有利に決定してもらえる可能性があります。

 

デメリット

解決までに時間を要する

示談交渉の場合には、双方が合意してしまえばすぐに終結します。

裁判の場合、まず準備に一定の時間を要します。

弁護士が急げば比較的早く裁判を始めることも可能でしょうが、一般的に1ヶ月以上は準備に時間を要することが多いと思います。

また、裁判は、1〜1ヶ月半程度に1回のペースで進められていきます。

したがって、裁判をした場合、裁判を開始してから解決まで6ヶ月〜数年程度を要します。

 

賠償額が示談交渉時よりも減額される可能性

裁判になった場合には、相手方に弁護士がついて反論してきます。

示談交渉の段階で保険会社が認めてくれていた部分についても白紙に戻して争われることもあります

例えば、示談交渉の段階では、整骨院の施術費用を認めていたのに、裁判になった途端に施術費用を認めない主張をしてくることもあるのです。

また、裁判途中で、被害者にとって思わぬ不利な証拠が出てくることもあります。

したがって、事案によっては、裁判をすることで示談交渉の段階よりも賠償額が少なくなってしまうこともあるのです。

 

必要な費用が増える

裁判をする場合には、裁判所に裁判費用を支払う必要があります

例えば、500万円の請求であれば印紙代として3万円、2000万円の請求であれば8万円を印紙代として収めなければいけません。

この印紙代は、請求する金額が大きくなればなるほど金額があがっていきます。

また、裁判手続きに移行する場合には弁護士費用も追加で必要となります。

 

 

裁判をするかどうかの判断

裁判をした場合には、交渉段階では請求できなかった遅延損害金や弁護士費用などを請求することができます。

また、賠償の水準は、最も高水準である裁判基準で賠償を受けることができます。

もっとも、裁判にはリスクもあります。

加害者側は、裁判になった場合には、交渉段階で話し合っていたことを白紙に戻して、一切について、再度検討して反論を行ってきます。

したがって、交渉段階では賠償を認めていた損害について、裁判においては争ってくる可能性があるのです。

具体例 治療について、交渉段階では1年分を認めていたが、裁判になると半年分しか認めないといった主張をされた場合

このような主張がなされた場合には、被害者側において1年間の治療が必要であることを主張立証する必要があります。

仮に、立証できなければ、治療費は半年分しか認められないことになるのです。

したがって、裁判をする場合には、各損害項目について、どの程度の立証が可能かを十分見極めることが重要です。

ですから、裁判をするかどうかの判断は、弁護士でないと難しいでしょう。

裁判を検討されている方は、一度、弁護士に相談されることをお勧めします。

 

交通事故の裁判の流れ

裁判所に訴状を提出する

裁判を始めるには、まず訴える立場である原告が訴状を作成して、裁判所に提出しなければなりません

訴状には、裁判を提起する裁判所、当事者の氏名、住所といった記載に続いて、裁判官に判決で認めてほしい請求の内容(請求の趣旨といいます。)とその請求の原因となっている理由(請求の理由といいます。)を記載します。

ポイントとしては、訴状に関しては、あらゆる事実を詰め込みすぎないことが大切になります。

請求の根拠となっている事実を法律上要求されている要件に沿って記載するというイメージです。

弁護士に事件処理を依頼すれば、訴状等の書類は全て弁護士が作成いたします。

訴状を作成する際のポイント

訴状を作成するにあたっては、以下のポイントに留意して作成する必要があります。

①記載事項に漏れがないようにする

訴状には、記載しなければならない事項があります。

以下は、一般的な記載事項です。

  • 訴状作成年月日
  • 提出先の裁判所名
  • 訴状提出者の氏名、押印
  • 事件名
    交通事故の場合は、「損害賠償請求事件」となります。
  • 訴訟物の価額
    請求する金額です。
  • 貼用印紙額
    裁判をする手数料のために必要となります。
  • 原告の住所氏名,電話番号,ファクシミリ番号及び書類の送達場所
    原告とは裁判を提起する被害者のことです。
  • 被告の住所氏名
    被告とは、加害者のことです。
  • 請求の趣旨
    加害者に求める請求の内容です。
  • 請求の原因
    加害者の請求を根拠付ける事実や法的な主張の記載です。
  • 証拠
  • 附属書類
    訴状(正本)の他に提出する書類を記載します。

上記のような記載事項を漏れなく記載する必要があります。

②法律の要件に当てはまる事実を記載する

訴状に記載する「請求原因」の中で、法律の要件に当てはまる事実を記載する必要があります。

例えば、交通事故による損害賠償請求の場合、法律の要件として「損害」の発生を主張立証する必要があります

具体的には、「損害」の内容として、治療に必要となった事実とその金額、給料が減ってしまった事実とその減った金額などを訴状に記載する必要があります。

発生した「損害」を基礎づける事実は全て主張しておかないと、漏れている事項は裁判では審理されないので十分に注意が必要です

③争いになりそうな事実には証拠を示す

加害者側が争わない事実については、証拠がなくても裁判所も認めてくれます。

しかし、加害者が争う事実については、被害者側で根拠となる証拠を提出して主張する必要があります

例えば、加害者側が、被害者はケガをしていない、病院で治療する必要性はなかったと主張した場合には、診断書や診療報酬明細書、カルテなどを示して、ケガをしたことや、治療の必要性があったこと主張立証する必要があります。

事前の交渉で加害者側が争っている事実関係については、裁判になった場合にも確実に争ってきます。

いざ裁判になったときに証拠がなくて困らないように、裁判前に証拠により証明できるかどうかを検討した上で裁判をすべきでしょう

④5W1Hを心がける

5つのWである「When=いつ」、「Where=どこで」、「Who=だれが」、「What=何を」、「Why=なぜ」と、1つのH「How=どのように」を意識して文章を作成する必要があります。

5W1Hを意識することで、より具体的で説得的な訴状を作成することができます。

⑤感情的な事柄は記載しない

交通事故被害者としては、加害者に対して憤りの感情があり、様々な文句を言ってやりたいケースは数多くあるかと思います。

しかし、そうした感情的な事柄の記載は、裁判では評価されません

訴状では、端的に必要な事実と法的評価を記載することが大切です。

1回目の裁判期日

訴状を裁判所に提出すると、形式的な不備がないかどうかを裁判所が確認を行います。

その上で、原告が提出した書類を相手方である被告に特別郵便で郵送(送達といいます。)します。

このとき、第1回の裁判期日も決定してその日時の連絡文書も送付をされます。

そして、被告は、この第1回期日までの間に答弁書といって、訴状に記載された事実について、間違いないかどうか、原告の訴えに対する意見を記載した書面を提出します。

訴状と答弁書が提出された状態で第1回期日が開催されます。

通常、被告は答弁書を提出した上で第1回期日は出席せず、欠席をすることが多いです。

そのため、この場合には、第1回期日は原告側のみの出席で進められます。

なお、弁護士に依頼をした場合には、こうした裁判の出席も弁護士のみが行えば足りるため、被害者の方が自ら裁判に出席するというのは当事者尋問の時点までないことがほとんどです。

また、仮に、被告が第1回期日までに答弁書を提出せず、裁判期日にも出頭しなかった場合には、被告に言い分がないものと取り扱われ、事件は終結となり、約1週間後には判決が下されます(欠席判決といいます。)。

こうした欠席判決は保険会社がいるケースではまず起こりませんが、加害者が任意保険に加入していないケースでは、起こることがあります。

2回目以降の裁判期日

第1回期日の後は、通常1ヶ月〜1ヶ月半に1回程度のペースで裁判が進行していきます。

裁判ではお互いの主張を書面にまとめて提出することになります。

原告、被告が互いに自分の主張を出すのと合わせて、相手方の主張に対する反論を書面にして裁判期日までに提出し、この書面の出し合いを続けていく中で、互いの主張と争点を整理していきます。

主張するにあたっては、その主張を根拠付ける証拠も一緒に提出する必要があります。

なお、交通事故の裁判の特徴として、文書送付嘱託や調査嘱託という手続が比較的多くなされるという点が挙げられます。

文書送付嘱託や調査嘱託では、治療を受けた病院からカルテを取り寄せたり、警察署、検察庁から事故状況を記載した実況見分調書を取り寄せたりすることで、争点に重要な事実を確認する手続がなされます。

病院のカルテは、通常保険会社との示談交渉レベルでは、具体的な中身まで確認することはあまりありません。

したがって、カルテが出てきたことで、新たな事実が発見され、それまでの主張を保険会社が覆して、治療期間や後遺障害の有無などを争ってくるということもしばしば起こります。

したがって、裁判を提起する場合には、カルテ開示によって、被害者の方に不利な事実となりうるものはないかどうかチェックすることも検討すべきでしょう。

裁判所からの和解案の提示

書面のやり取りを行っていくとおおむね争点に対する原告、被告の互いの主張が明らかとなってきます。

そして、その主張を裏付ける証拠の内容も裁判で検討がされます。

その段階に至ると、事案によっては、裁判所から和解案を提案されることがあります。

この和解案は、あくまで裁判官の暫定的な印象による解決案です。

したがって、判決と必ずしも一致するわけではありませんが、双方の主張を踏まえての案なので、十分に検討する必要があります。

原告、被告の双方がこの和解案を受け入れれば、和解が成立し、事件が終結することになります。

証人尋問、当事者尋問

和解が成立しない場合には、人証と呼ばれる証拠調べを行うことになります。

テレビドラマでよく見かける法廷シーンのように、証人や原告、被告本人という当事者が裁判官の前の証人席に座って、互いの代理人からの質問に答えるという手続です。

日頃から裁判を取り扱っている弁護士でもこの証人尋問、当事者尋問は十分な準備をして望みます。

ですので、経験のない方にとっては、非常に緊張感のある手続になります。

この手続は代理人だけの出席では成立しませんので、被害者の方にも裁判に出席していただく必要があります。

尋問の流れ
  1. ① 主尋問 (尋問を申請した側からの質問)
  2. ② 反対尋問 (相手方からの質問)
  3. ③ 再主尋問
  4. ④ 再反対尋問
  5. ⑤ 補充尋問 (裁判官からの質問)

尋問は、上記のような流れで行われます。

尋問を行う人数が複数いる場合には、上記の流れを人数と同じ回数実施することになります。

再主尋問と再反対尋問は補充的に質問するものであり、メインは主尋問と反対尋問になります。

反対尋問は、相手方からの質問なので、どのような質問がなされるかは正確には分かりませんが、主尋問に関しては、事前に質問内容や回答を整理しておくことができます。

判決

証人尋問や当事者尋問が終われば、基本的には証拠調べが終了します。

したがって、この段階で審理を終結し、裁判官が判決を出します。

判決は原告の請求をすべて認める全部認容判決、原告の請求の一部を認める一部認容判決、原告の請求をすべて棄却する請求棄却判決があります。

 

控訴、上告

裁判所が出した判決に不服がある場合には、控訴することができます。

控訴した場合には、さらに上級裁判所で審理が行われます。

上級裁判所の判決でも納得できない場合には、上告することができます。

 

 

裁判が集結するまでの期間

裁判所の統計によれば、交通事故の裁判の審理期間は、平均12.4ヶ月です。

裁判は時間がかかるというイメージがありますが、約20%が6ヶ月以内に終結しています。

審理期間 割合
6ヶ月以内 16.7%
6ヶ月超1年以内 39.1%
1年超2年以内 36.7%
2年超3年以内 6.0%
3年超5年以内 1.4%
5年を超える 0.1%

参照:「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第9回)」(最高裁判所・令和3年7月30日)

 

 

裁判にかかる費用

収入印紙代

裁判を行うにあたっては、訴える金額に応じて裁判所に収入印紙の購入という形で支払う必要があります。

請求額(訴額) 収入印紙代
100万円まで 10万円増える毎に1000円追加
500万円まで 20万円増える毎に1000円追加
1000万円まで 50万円増える毎に2000円追加
10億円まで 100万円増える毎に3000円追加

具体例 360万円請求する場合

上記の表を参照しながら下記の計算式をご覧ください。100万円までの部分 1000円 ✕(100万円 ÷ 10万円)= 1万円
100万円〜360万円の部分 1000円 ✕(260万円 ÷ 20万円)= 1万3000円

上記を合計した2万3000円が、360万円を請求する場合の印紙代になります。

 

郵便切手代

当事者に郵便物を送付するための郵便切手代を支払う必要があります。

原告と被告が1名ずつの場合は6000円で、1名増える毎に2000円ずつ加算されることになります。

 

弁護士費用

弁護士に依頼する場合には、弁護士費用がかかります。

弁護士費用特約がある場合には、全ての弁護士費用を賄うことができる場合もありますので、弁護士費用特約が使えるか確認されたほうがいいでしょう。

また、弁護士費用として、損害認定額の10%分を相手方に請求することができます。

例えば、100万円の賠償が裁判所に認定されたとすると、10万円が弁護士費用として認められることになります。

 

 

交通事故裁判が長引く原因

過失相殺に争いがある場合

過失割合に争いがある場合には、事故態様に争いがあるケースが多くあります。

相手がウィンカーを出していたか、どのタイミングで交差点に進入してきたかなど事実レベルで争いになることが多いのです。

こうした場合、ドライブレコーダー等の客観的な証拠がない場合には、お互いの言い分を聞いてみて、どちらが信用できるかを検討する必要が出てきます。

したがって、過失割合について争いがある場合には、尋問手続きまで進む可能性が高くなり、裁判が長引きやすいといえます。

 

後遺障害が残る場合

後遺障害が残る場合には、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求することができます。

後遺障害慰謝料は、目安の金額が決まっているため、それほど争いになりませんが、逸失利益は、基礎収入、労働能力喪失期間、労働能力喪失率について、審理する必要があり、当事者間でも争いになることが多いです。

加害者側も後遺傷害がある場合には、賠償額も高額になるため、医師の意見書をとりつけるなどして反論してきます。

後遺障害が残る場合では、お互いに主張と反論が多くなるため、結果として裁判が長引いてしまう傾向にあります。

 

死亡事故の場合

死亡事故の場合においても、逸失利益や過失割合で争いになり、双方の主張・反論が多くなり、裁判が長引く傾向にあります。

また、死亡の原因が交通事故かどうかで争いになるような場合には、医学的な問題にも発展して、審理が長期化することもあります。

 

 

交通事故裁判でよくある質問

交通事故の裁判は自分でできる?

交通事故の裁判は、自分でも行うことができます

裁判を始めるにあたっては、訴状を作成し、訴状に記載されている事実を根拠付ける証拠を揃える必要があります。

細かい話をすれば、裁判費用のための印紙や決められた額の郵便切手等も準備する必要があります。

こうした書類一式をまとめて裁判所に提出すれば、自分でも裁判を始めることは可能です。

しかし、実際、自分で裁判をしようとするととても大変です。

訴状の作成には一定のルールがあり、ルールを守らなければ却下されてしまうこともあります。

また、加害者に損害を賠償する義務があることを示す事実関係を証拠によって明らかにし、その事実関係に基づき、法的な主張を行う必要があります。

法的な主張の中には、様々な論点があり、それぞれの論点について、被害者側の立場で主張していかなければなりません。

こうした作業は弁護士でなければとても大変です。

主張漏れがあれば、賠償額に影響して適切な補償を受けることができない可能性もあります

したがって、裁判をする場合には、弁護士に依頼されることをお勧めします。

 

裁判したら裁判費用や弁護士費用は加害者に払ってもらえる?

裁判をした場合、裁判費用や弁護士費用を加害者に請求することができます
 

裁判費用

裁判費用とは、裁判を始めるにあたって裁判所に収める手数料、郵便切手代、証人の交通費・日当、裁判記録の謄写費用などです。

裁判費用は、勝訴判決を得た場合には、加害者側に全額ないし一部を負担させることができます。

負担させることができる割合は、判決の中で示されます。

ただし、判決までいかずに、裁判の途中で和解で解決する場合には、裁判費用は各自の負担とされ、加害者側に請求できないのが一般的です。

弁護士費用

弁護士費用は、裁判所が損害として認めた金額(既払金は含まれません)の10%程度を請求することができます

例えば、裁判所の損害認定額が300万円である場合、その10%の30万円が弁護士費用として認められることになります。

 

交通事故で裁判すると、裁判所に行かないといけない?

自分で裁判を行う場合には、基本的に裁判期日ごとに裁判所に出頭する必要があります

弁護士に依頼した場合には、弁護士が対応するため、1度も裁判に行く必要がないケースもあります

被害者が裁判に出頭する必要があるのは、当事者尋問が行われる場合です。

当事者尋問とは、被害者の事故に対する認識や損害の発生状況について、弁護士や裁判官から質問をする手続きです。

この手続きが行われる場合には、被害者も必ず出頭する必要があります。

しかし、尋問の手続きの前に、裁判所から和解案が提示されます。

和解案は、相手を許す案というわけではなく、当事者双方の主張立証を踏まえて、裁判所として妥当と考える賠償額を双方に提示するものです。

この提示で双方が納得した場合には、和解によって裁判は終結するので尋問の手続きは行われません。

尋問手続以外で被害者本人が出頭する必要は基本的にないため、尋問手続が行われない場合には、被害者は一度も裁判所に行かずに解決できることになります

 

交通事故で加害者側から訴えられることもある?

交通事故で加害者側から訴えられることもあります。

例えば、加害者側から訴えられるケースとしては、以下の2つのケースが考えられます。

①被害者にも過失がある場合

被害者にも過失割合がある場合には、加害者の損害額のうち過失割合分の金額を賠償請求される可能性があります

例えば、被害者に過失割合が30%あり、加害者に100万円の損害が生じている場合、100万円✕30%=30万円の賠償を求めて訴えられる可能性はあります。

しかし、ほとんどの場合、いきなり訴えられることはなく、事前に支払いを求める通知が届きます。

その通知を無視し続けた場合には、訴えられてしまう可能性があるので、賠償の通知や連絡がきた場合には、適切に対応しましょう。

賠償の通知内容が適切かどうか判断がつかない場合には、弁護士に相談されることをお勧めします。

②被害者が長期間にわたり治療を継続している場合、あるいは、保険会社からの連絡に応答しない場合

加害者側から見て、治療の必要性に乏しいと考えられるのに、被害者が長期間にわたって治療を継続している場合には、債務不存在確認訴訟を起こされる可能性があります

また、保険会社からの連絡に長期間応答しない場合にも債務不存在確認訴訟を起こされる可能性があります。

債務不存在確認訴訟とは、ある一定額(0円を含む)以上の賠償金の支払い義務を加害者側は負わないことを確認する裁判です。

加害者側としては、早期解決したいのに、交渉での解決が困難である場合に債務不存在確認訴訟を提起してくることがあります。

債務不存在確認訴訟が提起された場合には、被害者側としても反訴提起(訴訟の中で逆に加害者に賠償の請求をすること)等といった手続きを取る必要があるため、速やかに弁護士に相談されることをお勧めします。

 

 

まとめ

裁判を進めていくには、専門的な知識が必要となります。

また、適切な賠償額を請求するには専門である弁護士のアドバイスは不可欠です。

裁判を行うべきかどうか迷われている場合には、弁護士に相談されることをお勧めします。

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