高血圧症の既往症を理由に、交通事故のけがの損害は減額される?

高血圧症の既往症があります。
高血圧症を理由に交通事故のけがの損害が減額されることはありますか?
高血圧症の既往があるというだけでは直ちに損害が減額されることはありません。
もっとも、交通事故によって高血圧症と関連性の高い脳内出血が発症したとき、損害が減額されることはあります。
目次
高血圧症とは
高血圧症とは、収縮期血圧(最高血圧)140mmHg以上もしくは拡張期血圧(最低血圧)90mmHgまたはその両方であるものです。
高血圧症は、塩分の取りすぎ、肥満、過剰な飲酒、精神的ストレス、運動不足などを原因として発症します。
高血圧症の治療方法は、塩分を減らすなどの食事療法や運動療法によって行います。
食事療法や運動療法の効果が見られないような場合には、降圧薬を使用して治療することになります。
日本では約4300万人が高血圧症で、年間約10万人が死亡しているといわれています。
引用元:高血圧|厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット
素因減額
素因減額とは、被害者の身体的・心因的要因を加味して賠償金を減額する考え方です。
単に身体的な特徴の場合は、減額されることはありませんが、被害者が事故前から疾患を患っている場合で、その疾患が原因で、損害が発生拡大した場合には、賠償額が減額される可能性があります。
高血圧症も疾患に該当すると考えられるため、事案によっては、素因減額されることとなります。
裁判例
交通事故外傷への高血圧症の影響を否定した判例
否定した裁判例としては、以下のようなものがあります。
判例 交通事故外傷への高血圧症の影響を否定した判例
被害者は狭心症、高血圧症、肝機能障害のある48歳の男性です。
交通事故により第3~9肋骨骨折、肺挫傷、血気胸、肝損傷、腹腔内出血、右腓骨骨折、半月板損傷を受傷しました。
11級の後遺障害が残存したケースです。
(高血圧症が)「本件事故による受傷、治療に影響を及ぼしたことを認めるに足りる証拠はない」として、素因減額による減額は否定されました。
【大阪地判平成11年10月6日】
脳内出血への高血圧症の影響を認めた判例
認めた裁判例としては、以下のようなものがあります。
(1)頭部への受傷があったケース
判例 1割の減額が認められた事例
被害者は高血圧症のある80歳男性です。
交通事故により頭部打撲、右後頭部挫創、頚椎捻挫、脳内出血を受傷し、死亡しました。
このケースでは、事故以前に高血圧の薬を飲んでいたこと、実際に高血圧が原因で脳内出血を発生したと認められるとして、高血圧症の既往症が影響したとして素因減額による減額を認めました。
ただし、交通事故により「頭部に強い衝撃を受けたと考えられる」事情から「本件の事故が直接の原因となって、さらには、大きな原因となって高血圧性脳内出血が起きたと考えるのが合理的」として1割の減額にとどまりました。
【大阪地判平成11年9月17日】
(2)頭部への受傷がなかったケース
判例 ① 事故と高血圧症の増悪が認められた事例
被害者は軽度の高血圧症のある47歳男性です。
交通事故により胸部打撲、頚椎捻挫を受傷しました。
事故より24日間のうちに脳内出血を発症し、左半身麻痺、感覚障害の後遺障害(裁判所認定5級)が残存しました。
「事故によるストレスが高血圧症の増悪をもたらしたため、脳内出血が発生した」として因果関係が認められつつも、素因減額を認めました。
【大阪地判平成17年4月14日】
判例 ② 6割もの減額が認められた事例
被害者は軽度の高血圧症のある47歳男性です。
被害者は高血圧症、虚血性心疾患、多発性空洞性梗塞、左中大脳動脈の狭窄の既往のある71歳の女性です。
交通事故により左肘関節部擦過打撲傷、右手・右下腿挫傷を受傷しました。
また、のちに脳梗塞による片麻痺、右上位近位部の筋力低下の後遺障害(裁判所認定9級)が残存しました。
交通事故と脳梗塞との因果関係自体は認めたものの、「高血圧症、虚血性心疾患、多発性空洞性梗塞、左中大脳動脈の狭窄が進行、増悪して脳梗塞、片麻痺の契機となった」として6割もの減額が認められました。
【名古屋地判平成14年8月16日】