股関節の可動域制限の後遺障害は?【交通事故に詳しい弁護士が解説】

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)


後遺障害8級7号、10級11号、12級7号に認定される可能性があります。

股関節の特徴


股関節は、肩関節と比べ、関節窩(「かんせつか」、関節の一方の骨にあるくぼみのことです)が深いため、安定性が高く、大きな力がかからないと骨折や脱臼のしにくい部位です。

その反面、一度脱臼すると整復が難しい部位です。

交通事故により受傷する傷病として、例えば、

  • 大腿骨頸部骨折
  • 大腿骨転子部骨折
  • 股関節脱臼・骨折

などがあります。

これらの傷病による股関節の可動域が制限されます。

股関節の痛みについて後遺障害14級を獲得した事例はこちらをご覧ください。

 

 

可動域が制限された場合の後遺障害等級は?

可動域制限(関節が動かしづらくなること)が残った場合、その動かしづらさの程度によって後遺障害等級が変わってきます。

後遺障害等級
  • 8級7号「1下肢の3大関節の中の1関節の用を廃したもの」
    「用を廃したもの」とは、簡単に言うと、全く肩関節が動かない状態、あるいは、動いたとしても、ケガをしていない方の肩の10%以下しか動かないような場合をいいます。
  • 10級11号「1下肢の3大関節の中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」
    「関節の機能に著しい障害を残すもの」とは、股関節の可動域(動く範囲)が、ケガをしていない側の股関節と比べ1/2以下に制限されているような場合です。
  • 12級7号「1下肢の3大関節の中の1関節の機能に障害を残すもの」
    「関節の機能に障害を残すもの」とは、股関節の可動域(動く範囲)が、ケガをしていない側の股関節と比べ3/4以下に制限されているような場合です。

それぞれの後遺障害慰謝料は、下表のとおりです。

後遺障害等級 後遺障害慰謝料額
8級7号 830万円
10級11号 550万円
12級7号 290万円

 

なお、股関節の可動域制限の後遺障害に認定されるには、客観的にみて股関節の骨や筋肉に異常が認められることも必要です。

仮に、可動域制限は残っているものの、骨折もきれいに治っていて、レントゲンやMRI等で骨や筋肉に異常が認められないような場合には、可動域制限の後遺障害は認められません。

このような場合には、神経症状の後遺障害(14級9号)の認定の問題になってきます。
神経症状の後遺障害については、後述します。

 

股関節の可動域の計測はどうやるのですか?

関節可動域は、他動(他人が動かす場合)の主要運動を計測します。
ケガをしていない側(健側)とケガをした側(患側)の主要運動の合計を比較して後遺障害の認定を行います。

主要運動とは、各関節における日常の動作にとって最も重要な動作として考えられる運動です。

基本的には、主要運動の可動域によって認定が行われますが、可動域が1/2や3/4をわずかに上回るような場合(原則5度上回る場合)には、参考運動も考慮して後遺障害の認定が行われます。

足関節の主要運動は、膝屈曲、伸展、外転、内転です。

足関節の主要運動

膝屈曲は、仰向けになり、膝を体の方に近づけた場合の太ももと地面の角度です。伸展は、うつ伏せになり、足を伸ばしたまま、上に挙げた際の地面と足の角度です。

外転は、両足を伸ばしたまま仰向けになり、片足を固定して、他方の足を伸ばしたまま、外側に広げる動作です。
足の付け根を起点として、足を伸ばした状態と動かした後の足の角度を測ります。

内転は、仰向けになり、片足を曲げた状態で固定し、他方の足を体の内側に動かす動作です。
足の付け根を起点として、足を伸ばした状態と動かした後の足の角度を測ります。

股関節の参考運動は、外旋と内旋です。

股関節の参考運動

外旋は、両足を伸ばしたまま仰向けになり、片足の股関節と膝関節を90度に曲げた状態にし、膝を起点として、他方の足の方向に動かす動作であり、内旋は、その逆に動かす動作です。それぞれ、膝を軸として、動かす前の足(足を伸ばして股関節と膝関節を90度にした状態)と動かした後の足の角度を測ります。

神経症状の後遺障害

神経症状の後遺障害とは、簡単にいうと負傷した部分に痛みが残ってしまったことについての後遺障害です。

神経症状の後遺障害には、12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」あるいは、14級9号「局部に神経症状を残すもの」があります。

MRIイメージイラスト12級13号に認定されるには、痛みが残っていることについて、医学的に証明される必要があります。つまり、レントゲンやMRIなどで骨や筋肉に異常が残っていることが必要となります。

14級9号については、医学的な証明までは必要ありませんが、痛みがあることについて、医学的に説明できることが必要となります。
レントゲンやMRIでは、骨や筋肉に異常が認められないものの、事故の規模・態様、治療経過などを踏まえて、医学的にみて痛みが残っていると説明できる場合に認定がなされます。

後遺障害12級13号、14級9号の後遺障害慰謝料は、下表のとおりです。

後遺障害等級 後遺障害慰謝料額
12級13号 290万円
14級9号 110万円

 


 
 

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