顔に傷が残った場合に、逸失利益は認められますか?

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

交通事故により顔に傷が残った場合、傷の場所や大きさによっては後遺障害に該当します。

また、被害者の職業、年齢などによって、将来的な収入減少に対する補償である逸失利益が認められる可能性があります。

 

顔に傷が残った場合の該当可能性がある後遺障害等級

以前は、顔に傷が残った場合(これを外貌醜状といいます)、男女によって認定される後遺障害等級に差がありました。

しかし、平成22年6月10日以降発生した事故により外貌醜状が残存した場合は、認定される後遺障害等級の男女による差は撤廃されました。

具体的には、後遺障害が重いものから、以下の等級です。

該当可能性がある後遺障害等級
  • 7級12号
    外貌に著しい醜状を残すもの
  • 9級16号
    外貌に相当程度の醜状を残すもの
  • 12級14号
    外貌に醜状を残すもの

 

 

外貌醜状の逸失利益

後遺障害による逸失利益とは、後遺障害が残存したことによって、労働能力を喪失し、将来の収入が減少するであろうということに対する補償です。

逸失利益は以下の計算式で求めます。

逸失利益の計算式

基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失率に対応するライプニッツ係数

後遺障害による逸失利益について、詳しくはこちらをご覧ください。

上記のような逸失利益の性質からは、顔に傷が残ったとしても、手を動かしたり、足を動かしたりすることができれば、労働能力に影響がないと考えられるため、逸失利益は認められないことが多いです。

実際に保険会社は、顔に傷があっても就労に与える影響はなく、労働能力喪失率はないとして、逸失利益を0円と算定することが多く見られます

もっとも、傷の場所や大きさ、被害者の職業や年齢によっては、外貌醜状による後遺障害の逸失利益が認められることがあります。

 

 

実際の裁判例

7級の事例:東京地判 H28.1.25
被害者:54歳女性、介護職員
外貌醜状の内容:前額部左の15cm×2mmの瘢痕

裁判所の判断
障害者やその家族と円満な関係を構築し円滑な意思疎通を実現する上で支障が生じるが、減収がなく、化粧や髪型によってある程度目立たなくすることができるとして、労働能力喪失率10%、労働能力喪失期間13年の逸失利益を認めました。


9級の事例:名古屋地判 H26.5.28
被害者:33歳女性、空港ラウンジで接客業に従事する派遣社員
外貌醜状の内容:右頬から右耳殻に至る9cmの線状痕

裁判所の判断
化粧をしても隠しきれない程の傷であったことや、本件事故後に空港ラウンジマネージャーの立場から外されたりしたことを考慮して、労働能力喪失率35%、労働能力喪失期間34年の逸失利益を認めました。


12級の事例:東京高裁 H28.12.27
被害者:25歳男性、準社員及び舞台俳優を目指して舞台活動中
外貌醜状の内容:下顎の挫創治癒痕4cmと1cm

裁判所の判断
舞台活動は外見が重要な要素であるから、今後不利益取り扱いのおそれがあるとして、労働能力喪失率5%、労働能力喪失期間42年の逸失利益を認めました。

 

まとめ

給料もっとも、交通事故による顔の傷に対して、逸失利益が認められないとしても、慰謝料の算定において斟酌されることは多く、慰謝料の増額事由として取り扱うケースがあります。

ですので、顔の傷の補償が争点になった場合には、傷跡が具体的にどのように日常生活や仕事の中で影響しているかを積極的に主張立証していくべきです。

顔の傷の後遺症について詳しくはこちらをご覧ください。

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