年少者の逸失利益の算出に男女差があるのは本当ですか?
目次
女子年少者の死亡による逸失利益の算定
以前、女子年少者の死亡による逸失利益の算定の基礎収入は「女性労働者の全年齢平均賃金」を基礎として算定していました。
そのため、死亡による逸失利益について男子と女子で以下のような差がついていました。
11歳男子の死亡による逸失利益
536万0400円 ×(1-0.5)
×(18.6985-5.7864)= 34,607,010円
11歳女子の死亡による逸失利益
364万1200円 ×(1-0.3)
×(18.6985-5.7864)= 32,910,876円
536万0400円:平成26年賃金センサス男性労働者学歴計の全年齢平均賃金
364万1200円:平成26年賃金センサス女性労働者学歴計の全年齢平均賃金
(1-0.5)、(1-0.3):生活費控除
18.6985-5.7864:ライプニッツ係数
18.6985⇒67歳-11歳=56年に対応するライプニッツ係数
5.7864⇒18歳-11歳=7年に対応するライプニッツ係数
女子年少者の死亡による逸失利益の計算をする際、男女合わせた全労働者平均賃金よりも低い額の賃金センサスである女性労働者平均賃金を基礎収入として使われていました。
このことについて、最高裁判所の判例は「現実の労働市場における実態を反映しているもので」不合理とは言えないと判示していました(S62.1.19 )。
女子年少者の死亡による逸失利益の算定に全労働者の全年齢平均賃金を使うことについて
その後、女子差別撤廃条約、男女雇用機会均等法、労働基準法の女子保護規定の撤廃、男女参画社会法の制定など女性の社会進出を図る法改正が進みました。
そこで女子年少者の逸失利益を算定するための基礎収入は賃金センサスの全労働者平均賃金を用いるのか女子労働者の平均賃金を用いるのか、訴訟が提起されました。
全労働者の平均賃金を用いるのを認めた判例
東京高裁H13.8.20
「高校卒業までか少なくとも義務教育を終了するまでの女子年少者については、逸失利益算定の基礎収入として賃金センサスの女子労働者の平均賃金を用いることは合理性を欠き、男女あわせた全労働者の平均賃金を用いるのが合理的と考えられる」とし、全労働者平均賃金を用いて女子年少者の死亡による逸失利益の算定を認めました。
大阪高判H13.9.26
交通事故の被害者は14歳の女の子でした。
全労働者の平均賃金を用いるのを認めなかった判例
従来通りの女性労働者の全年齢平均賃金を用いるべきとした高裁判決も出されています。
福岡高裁H13.3.7
交通事故の被害者は2歳の女の子でした。
東京高裁H13.10.16
交通事故の被害者は11歳の女の子でした。
最高裁判所は判断をしていない
これら4つの高裁判決の上告審で、最高裁判所は理由を示すことなく上告を斥けました。
その後下級審では中学生以下の女子には全労働者の全年齢平均賃金を用いられるようになり、このような内容の判決は徐々にですが増えています。
弁護士が交通事故の逸失利益を請求する場合には、被害者の方に有利な事情を集め、できる限り、基礎収入を上げることができるよう情報収集します。
お子様が亡くなられた場合の悲しみは言葉にはできません。
いくら賠償金を相手方から得たとしてもお子様は返ってはきませんが、相手方には民事・刑事のどちらについても厳正に償いをさせるべきです。