年少者の逸失利益の算出に男女差があるのは本当ですか?

執筆者:弁護士 木曽賢也 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

男子年少者と女子年少者での逸失利益の違い

以前、女子年少者の死亡による逸失利益の算定の基礎収入は「女性労働者の全年齢平均賃金」を基礎として算定していました。

そのため、死亡による逸失利益について男子と女子で以下のような差がついていました。

11歳男子の死亡による逸失利益

5,584,500円 ×(1-0.5)×(26.9655-6.2303)= 57,897,862円

  • 平成30年賃金センサス男性労働者学歴計の全年齢平均賃金:5,584,500円
  • 生活費控除:(1-0.5)
  • ライプニッツ係数(令和2年4月1日以降の事故の場合):26.9655−6.2303
    • 67歳-11歳=56年に対応するライプニッツ係数:26.9655
    • 18歳-11歳=7年に対応するライプニッツ係数:6.2303
11歳女子の死亡による逸失利益

3,826,300円 ×(1-0.3)×(26.9655-6.2303)= 55,537,367円

  • 平成30年賃金センサス女性労働者学歴計の全年齢平均賃金:3,826,300円
  • 生活費控除:(1-0.3)
  • ライプニッツ係数(令和2年4月1日以降の事故の場合):26.9655−6.2303
    • 67歳-11歳=56年に対応するライプニッツ係数:26.9655
    • 18歳-11歳=7年に対応するライプニッツ係数:6.2303

女子年少者の死亡による逸失利益の計算をする際、男女合わせた全労働者平均賃金よりも低い額の賃金センサスである女性労働者平均賃金を基礎収入として使われていました。

このことについて、最高裁判所の判例は「現実の労働市場における実態を反映しているもので」不合理とは言えないと判示していました(S62.1.19 )。

 

 

女子年少者の死亡による逸失利益の算定について

その後、女子差別撤廃条約、男女雇用機会均等法、労働基準法の女子保護規定の撤廃、男女参画社会法の制定など女性の社会進出を図る法改正が進みました。

また、実際に男女間の賃金格差は年々狭まってきています。

そこで女子年少者の逸失利益を算定するための基礎収入は賃金センサスの全労働者平均賃金を用いるのか女子労働者の平均賃金を用いるのか、訴訟でよく問題となります。

 

全労働者の全年齢平均賃金を基礎収入とした裁判例

判例 全労働者の平均賃金を用いるのを認めた裁判例

交通事故の被害者は11歳の女の子でした。

判示では、
「高校卒業までか少なくとも義務教育を終了するまでの女子年少者については、逸失利益算定の基礎収入として賃金センサスの女子労働者の平均賃金を用いることは合理性を欠き、男女あわせた全労働者の平均賃金を用いるのが合理的と考えられる」とし、

全労働者平均賃金を用いて女子年少者の死亡による逸失利益の算定を認めました。

【東京高裁H13.8.20】


交通事故の被害者は14歳の女の子でした。

【大阪高判H13.9.26】

 

女子の平均賃金を基礎収入とした裁判例

従来通りの女性労働者の全年齢平均賃金を用いるべきとした高裁判決も出されています。

判例 全労働者の平均賃金を用いるのを認めなかった裁判例

交通事故の被害者は2歳の女の子でした。

判示では、
「不確定要因の多い女児の逸失利益の算定に際し、その者が将来の稼働によって得たであろう収入額を算定する場合に、現時点において我が国の現実の労働市場における実体を反映する賃金センサスにおける女子の平均賃金を基礎収入とすることが合理性を欠くものとはいえない」としました。

【福岡高裁H13.3.7】


交通事故の被害者は11歳の女の子でした。

【東京高裁H13.10.16】

 

 

最高裁判所は判断をしていない

これら4つの高裁判決の上告審で、最高裁判所は理由を示すことなく上告を斥けました。

その後下級審では中学生以下の女子には全労働者の全年齢平均賃金を用いられるようになり、このような内容の判決は徐々にですが増えています。

加えて、年少者のうち、高校生や大学生は、当該事案における個別の事実関係を勘案して、どの平均賃金を用いられるべきか判断されている裁判例もあります(高校生については神戸地裁H28.5.26、大学生については神戸地裁H27.11.11等)。

弁護士が交通事故の逸失利益を請求する場合には、被害者の方に有利な事情を集め、できる限り、基礎収入を上げることができるよう情報収集します。

お子様が亡くなられた場合の悲しみは言葉にはできません。

いくら賠償金を相手方から得たとしてもお子様は返ってはきませんが、相手方には民事・刑事のどちらについても厳正に償いをさせるべきです。

 

 

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