運行供用者責任とは?加害者以外にも請求できる?

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

交通事故に巻き込まれた場合、多くの事案では、加害者の保険会社が治療費などの損害を賠償してくれます。

しかし、事案によっては、加害者が任意保険会社に加入しておらず、加害者本人に賠償請求せざるを得ないケースもあります。加害者自身が十分にお金を持っていればいいのですが、お金がない場合には、賠償金の回収ができないという事態も起こりえます。

こうした場合には、運行供用者責任の制度を利用して、直接の加害者以外にも責任追及し、賠償責任の回収可能性を上げることを検討することになります。

この記事では、運行供用者責任の内容や仕組みについて詳しく解説しています。

 

この記事でわかること

  • 運行供用者責任の内容
  • 運行供用者責任の具体例

 

 

運行供用者責任とはどのような制度か?

運行供用者責任とは、車の所有者など車の運行を支配し利益を得る人にも人身事故の責任を課す制度です。

運行供用者責任は、自動車損害賠償保障法3条に規定されています。

自動車損害賠償責任
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。

証明責任が転換される

不法行為の損害賠償請求をする場合には、通常、被害者側において、加害者の故意・過失を証明しなくてはいけません。

しかし、運行供用者責任を追求する場合には、被害者は、相手方が運行供用者に該当することを主張立証すればよく、その責任を負わないことは相手方において主張立証する義務を負うのです。

 

 

加害者本人以外にも請求が可能

被害者のメリットとなる運行供用者責任の特徴としては、加害者本人以外にも賠償請求ができる点です。

実際に車両を運転している加害者でなくとも、運行供用者に該当すれば、該当者に対して損害賠償責任を追求することができるのです。

賠償請求できる対象が広がることで、賠償金の回収可能性も高まります。

 

 

運行供用者に該当する条件

それでは、運行供用者とはどういった場合に該当するのでしょうか。

この点、最高裁判例では、「自動車の使用について支配権を有し、かつその使用により享受する利益が自己に帰属するもの」(最判昭和43.9.24)とされています。

ここでのキーワードは「支配」と「利益」です。

自動車の運行を支配し、利益を得ている者が運行供用者となるのです。

 

運行支配とは?

運行支配とは、一般的に考えて、自動車の運行について支配を及ぼすことができる立場にあって、実質的に自動車の使用をコントロールできるような場合に認められます。

 

運行利益とは?

運行利益とは、実際に具体的な利益が生じている場合だけでなく、客観的外形的にみて何らかの利益が生じている場合にも認められます。

もっとも、運行利益は現在では、あまり重視されていないようです。

 

 

運行供用者の具体例

他人に自動車を貸した所有者の責任

自動車の所有者は、自己の所有する自動車の運行を支配し利益を得ることができます。

したがって、他人に自動車を貸した結果、その他人が交通事故を起こした場合には、所有者に対して、運行供用者責任を追求できる可能性があります。

 

従業員が私用で会社の車を運転した場合の会社の責任

会社は、車を所有している以上、所有する車の運行を支配することができる立場にあり、運行を支配制御する責任があると考えられています。

したがって、従業員が私用で会社の車を運転した場合においても、運行供用者責任を追求できる可能性があります。

 

マイカー通勤を許可している会社の責任

通勤は、労務を提供するための準備行為なので、原則として、会社は運行供用者責任を負いません。

しかし、マイカー通勤を認め、会社の業務に利用することまで認めている場合には、運行供用者責任を追求できる可能性があります。

 

代行運転の運転代行業者の責任

運転代行を依頼した人も、運転代行業者もいずれも運行供用者に該当し、運行供用者として責任追及できると考えられています。

 

所有者名義を貸与していた場合の貸与者の責任

車の運行を事実上支配管理することができ、監視監督すべき立場が認められるような場合には、名義の貸与者に運行供用者の責任を追求できる可能性があります。

 

 

運行供用者責任が否定される場合

自動車損害賠償保障法3条の但し書きには、以下のような文言があります。

ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを証明したときは、この限りでない。

この条項からすれば、運行供用者が、以下の3つを証明すれば責任を免れることができることになります。

  1. ① 自己及び運転者が自動車の運転に関する注意を怠らなかったこと
  2. ② 被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと
  3. ③ 自動車の構造上の欠陥がまたは機能障害がなかったこと

上記の3つを全て証明することは非常に難しく、運行供用者責任を免れることは稀なことと言えるでしょう。

 

 

まとめ

運行供用者の制度は、交通事故被害者救済のための制度です。

被害者には、証明責任の転換請求対象者を拡大という2つのメリットがあります。

加害者が任意保険会社に加入していない場合には、賠償金の回収可能性を上げるために、他に運行供用者がいないか調査すべきでしょう。

 

 

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