交通事故の自賠責保険の保険金が支払われない場合を教えてください。

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

弁護士西村裕一イラスト自賠責保険の保険金が支払われないのは、加害者に運行供用者責任が発生しない場合、運行供用者責任が発生するが保有者に責任が生じない場合、保有者に運行供用者責任が発生するが免責される場合です。

 

加害者に運行供用者責任が発生しない場合

運行供用者責任とは、自賠法3条本文に規定されている「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる」というものです。

この要件を満たさない場合は、加害者に運行供用者責任が発生せず、自賠責保険の保険金が支払われないということになります。

「自己のために自動車を運行の用に供する者」の要件

「自己のために自動車を運行の用に供する者」とは、一般的に運行供用者と呼ばれているものです。

加害者がこの運行供用者にあたらなければ、自賠責保険の保険金は支払われません。

運行供用者については、こちらをご覧ください。

また、「自動車」については、乗用車やトラックなどの4輪車、バイクなどの2輪車のことを指します。

原動機付自転車も含まれます。耕運機や自転車は、自賠責保険の対象となる自動車に該当しません。

 

「運行によって」の要件

「運行」とは、「人又は物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いること」(自賠法2条2項)をいいます。

具体的には自動車の構造上設置されている装置(固有装置)の全部または一部をその目的に従って使用することと解釈されています(最判S52.11.24)。

「よって」とは、「運行」と事故発生に相当因果関係のあるものをいいます(最判S43.10.8)。

これらの要件が否定された場合は、自賠責保険の保険金は支払われません。

判例 要件が認められた裁判例

  • クレーン車のクレーンの操作中の高圧電線接触による感電死した事故(最判S52、11.24)
  • 給油作業後に発進の準備行為としてエンジンのエア抜き作業のため荷台に乗り、必要な作業後に荷台から降りようとした際に負傷した事故(東京高判S62.3.30)
  • 積雪の中、暖気運転中に運転手が一酸化炭素中毒で死亡した事故(富山地判H9. 2.28)
  • 同乗者が後方の安全確認をしないでドアを開け、後方からきた原動機付自転車がそのドアに衝突した事故(東京地裁S44.10.29)

判例 要件が否定された例

  • 駐車中の車中に残された幼児が熱射病で死亡した事故(東京地判S 55.12.23)
  • 電柱の荷下ろし作業中の荷台から電柱が落下した事故(最判S56.11.13)
  • 車が、集中豪雨により冠水していた道路に進入し走行不能になったため、降車して避難しようとした際、濁流に流されて死亡した事故(東京高裁H25.5.22)

 

「他人」の要件

「他人」とは、「自己のために自動車を運行の用に供する者及び当該自動車の運転者を除くそれ以外のもの」(最判昭和42.9.29)をいいます。

自賠法3条では、事故の被害者が「他人」が救済対象とされているため、この「他人」に該当しなければ、自賠責保険から保険金が支払われません。

 

「他人の生命又は身体を害したとき」の要件

相手方がいない自損事故の場合、「他人の生命又は身体を害したとき」の要件を満たしません。

たとえば、停車中の車に追突し自分が怪我をした、不注意で電子柱にぶつかり怪我をしたなどの事故です。

自損事故の場合も、自賠責保険の保険金は支払われません。

 

 

保有者が自賠法3条ただし書の免責3要件を立証した場合

自賠法3条ただし書の免責3要件は以下の3つです。

自賠法3条ただし書の免責3要件
  1. 事故及び運転者が自動車の運転に関する注意を怠らなかったこと
  2. 被害者または運転者以外の第三者に故意または過失があったこと
  3. 自動車の構造上の欠陥がまたは機能障害がなかったこと

この免責3要件は、すべて立証される必要があります。

そのため、免責の余地は非常に狭いものとなっています。

 

 

運行供用者責任が発生するが保有者に責任が生じない場合

犯罪のイメージ画像運行供用者責任が発生するが保有者に責任が生じない場合とは、盗まれた自動車が事故を起した場合の盗まれた自動車の保有者には損害賠償責任は発生しないことです。

保有者とは「自動車の所有者その他の自動車を使用する権利を有する者、自己のために自動車を運行の用に供するもの」(自賠法2条2項)をいいます。

 

 

保有者に運行供用者責任が発生するが免責される場合

自賠法14条では、「保険会社は、……保険契約者又は被保険者の悪意によって生じた損害についてのみ、てん補の責めを免れる」とされています。

保険契約者又は被保険者の悪意とは、「明白な故意(害意、わざと)」という意思のことです。

なお、この場合の被害者は政府保障事業から補償を受けることができます。

 

 

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