交通事故の評価損とは?賠償金額はいくらになる?

執筆者:弁護士 北御門晋作 (弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士)

結論としては、事故歴によって評価損が発生し、かつ、自動車の保有者がその評価損についての賠償を請求できる立場にある場合には賠償請求は認められます。

事故歴が残ると、自動車の価値自体が下落することがあります。

このような価値の下落のことを評価損といいます。

評価損については賠償請求の対象となる場合があります。

 

 

評価損とは

交通事故に遭って車両が破損した場合には、修理歴・事故歴によって、修理したとしても、自動車の価値自体が下落することがあります。この下落分を評価損といいます。

評価損には2種類あります。

修理の技術上、機能や外観に欠陥や不備が残ってしまう場合の技術上の評価損と、修理によって機能や外観に関しては回復したものの、事故歴や修復歴が残り、取引上価値が下落してしまう場合の取引上の評価損です。

評価損について

前者の技術上の評価損の場合には、技術上、事故前の状態に原状回復することができないケースなので、評価損として一定額の賠償が認められる傾向にあります。

後者に関しては、基本的には認められにくい傾向にあります。

各裁判例では、車種、走行距離、登録年数、損傷の部位・程度、修理の程度、当時の車両時価額などから、評価損が発生するかどうか検討されています。

高級車で走行距離も短く、登録年数もそれほど経過していない車両ほど認められる傾向にあります。

 

自動車の保有者がその評価損についての賠償をできる立場とは

先ほど説明したとおり、評価損とは、自動車の価値自体の下落を指します。

自動車の価値の下落について損をするのは、その自動車の経済的な価値を把握している人です。

リースで自動車を購入した場合や所有権留保特約が付いている場合には、リース会社や所有権留保権を有している人に価値の下落についての損害が発生していることもあります。

そのような場合には、評価損があっても、自動車の保有者は評価損についての賠償は受け取れる立場にないとされることがあります。

 

一括購入、ローン完済の場合

一括購入、ローン完済の場合には、所有権は、自動車を保有している人にありますので、評価損については、自動車を保有している人に発生していることになります。

この場合には、評価損を請求できる立場にあるといえます。

 

所有権留保特約でローンを完済前の場合

この場合には、自動車の保有者が請求できるかどうかは裁判例が別れているところです。

否定例としては、ローンが完済されていないことを理由に自動車の保有者からの請求を否定した裁判例があります(名古屋地判平成27年12月25日など)。

肯定例としては、自動車の保有者が評価損について請求することができるとする黙示の合意がなされたことを理由に、自動車の保有者が請求できるとした裁判例があります(さいたま地判平成30年11月29日など)。

 

リース契約の場合

この場合についても裁判例が分かれているところです。

否定例としては、裁判時にリース自動車を利用している状況であるため、自動車の保有者にはいまだに損害が発生していないとして、自動車の保有者は請求できないとした裁判例があります(横浜地判平成30年8月10日)。

肯定例としては、残存価格の精算の蓋然性が高いこと理由に自動車の保有が請求できるとした裁判例があります(名古屋地判平成25年7月29日)。

 

 

評価損の賠償金額

評価損が生じているとして、どの程度の金額を賠償してもらえるのかは別途問題となります。

評価損の賠償金額についても、車種、走行距離、登録年数、損傷の部位・程度、修理の程度、当時の車両時価額などを考慮して賠償金額が定められます。

一般に損傷の程度が大きい場合には、修理費は高額になり、車両の価値の低下も大きくなるという相関関係があるため、裁判例においては、修理費用の10~30%といった形で算定しているものが多いです。

また、事故によって減少した自動車の価値を証明するために、一般社団法人日本自動車査定協会の事故現価証明書を証拠として提出する場合もあります。

ただし、同証明書は、算定基準が必ずしも明確とはいえないため、別に説明資料を出して事故による価値の減少を証明する必要があるでしょう。

 

 

裁判例

認められた裁判例としては、以下のような事例があります。

判例 評価損を認めた事例

  •  登録後2か月で走行距離約3500kmのBMWについて70万円の評価損を認めたもの(横浜地判平17年11月17日自保ジャーナル1652号21頁)
  •  登録後約3年で走行距離4万3000kmのトヨタ・セルシオについて、機能上の不具合を理由に修理費用の20%の33万円相当の評価損を認めた事例(東京地判平成10年10月14日交民31巻5号1523頁)

否定された裁判例は、以下のような事例があります。

判例 評価損を否定した事例

  •  登録後2年弱で走行距離約4万5000kmのフォルクスワーゲンについて、走行距離が多いことや部品交換で完全に修復することを理由に評価損を否定した事例(東京地判平15年8月28日交民36巻4号1142頁)
  •  登録後約2年で走行距離約5万3000kmのトヨタ・クラウンについて、損傷の程度から評価損を否定した事例(東京地判平12年11月28日自保1406号6頁)

 

 

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