事故によるむちうちで主婦の休業損害が争われた裁判例【弁護士解説】

執筆者:弁護士 西村裕一 (弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士)

交通事故の事故態様で依然として多い割合を占めている追突事故ですが、追突事故の場合、被害者の方は加害者が追突してくることを予想していないケースがほとんどです。

すなわち、信号停止や渋滞中にいつもルームミラーで後ろの状況を見ているわけではありませんので、追突事故は被害者にとってまさに不意打ちの事故になります。

こうした追突事故の場合、頚椎捻挫、腰椎捻挫といった、いわゆるむちうち症状が生じることがよくあります。

そして、むちうちの場合の休業損害について、その額が問題となる事案も出てきます。

今回は、兼業主婦の休業損害が争われた最新裁判例(金沢地裁平成29年4月13日)を解説いたします。

事案の概要

兼業主婦の女性が運転していた自動車に後続車両が追突した交通事故で、被害者の女性は、事故の翌日から整形外科と整骨院に通院し、交通事故の9か月後に症状固定となりました。

この時点で頚部痛や肩の痛み、頭痛の症状が残っていたため、医師に後遺障害診断書を作成してもらい、後遺障害の申請をしたところ、14級9号の認定がなされています。

加害者の保険会社は、被害者が本件事故当初の2週間パートの仕事を休んでいたものの、その後は休みが1日しかなく、家事労働にはほとんど支障がなかったはずだとして、休業損害について争ったため、裁判では休業損害が認められるかどうか、認められるとしてその額が主な争点となりました。

 

 

裁判所の判断

金沢地裁は、結論としては、交通事故から約2か月に当たる62日間については20%、それ以降の症状固定までの7か月間は10%の休業損害を主婦休損として認定しています。具体的な金額としては、31万9991円です。

裁判所は、まず、被害者が兼業主婦であったため、兼業の収入額を認定し、その額が70万円と低く、扶養の範囲内程度の就労であったことから、休業損害の算出の基礎を家事労働にすることとし、基礎収入を事故当時の賃金センサス(女性、学歴計、全年齢)平均である353万9300円としました。

その上で、被害者が事故の翌日から自動車を運転して病院に通院できていたことやパートの勤務を休んだのは保険会社側が主張するとおり、事故から最初の2週間とその後は1日しかないこと、症状固定前に引っ越しを行った際に、その準備を被害者が基本的に行ったことを事実認定しています。

最終的に、上記の事実から、被害者の家事労働に対する制約はそれほど大きなものではなく、特に、被害者がパートを辞めて専業主婦になって以降は、症状の改善に伴って更に制約の度合いは弱まっていたと判断しています。

なお、20%や10%という割合ですが、入院などで全く家事ができない場合を100%とした場合に、20%あるいは10%程度は制限があったとするもので、この数字は裁判官の裁量によって決定されます。

つまり、法律によって、20%とか10%といった数字が決まっているわけではなく、あくまでその事案ごとに最終的な判断を下す裁判官が決めることになるのです。

今回の事案の休業損害の計算式は以下のようになります。

事故から2か月 353万9300円÷365日×20%×62日
症状固定まで 353万9300円÷365日×10%×206日

 

 

ポイント

家事このように主婦の休業損害については、家事労働というある意味プライベートな領域の部分をどれだけ、第三者である裁判官に示すことができるかということが重要になります。

例えば、料理ができなかったという場合、宅配の領収書や弁当の領収書なども証拠の一つになります。掃除ができずに家事代行サービスを利用したというのも領収書が証拠になります。また、保育園の送迎を夫に頼んでいた場合には、夫の証言はもちろん、保育園の先生に協力してもらって陳述書を提出するということも検討事項になります。

このように「家事の実態を見える化」することで、適切な休業損害を獲得することができます。

今回紹介した裁判例でも、「自ら車を運転して通院していた」、「パートの仕事はほとんど休んでいない」、「引っ越しをした際の作業を被害者が行っていた」といった細かい事情を証拠から認定しています。

こうした主婦の休業損害についての主張や立証を被害者の方が自ら行うことは非常に難しいです。自賠責保険のように機械的に処理をするのとは性質が違います。

したがって、主婦の休業損害については、交通事故の専門の弁護士に依頼して進めるべきです。

 

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