死亡事故における慰謝料はいくらになる?-弁護士が解説-
被害者の年齢、家族構成、扶養家族の有無などの事情によって左右されますが、自賠責基準や任意保険の基準と、裁判基準では金額が大きく異なります。
死亡事故の慰謝料は、裁判例や自賠責基準によって一定程度定額化されています。
算定する際に、3つの基準(自賠責保険基準、任意保険会社基準、裁判基準)のうち、どの基準をベースにするかによって、金額が大きく変わってきます。
死亡事故における慰謝料とは?
死亡慰謝料は、交通事故により被害者が亡くなった場合に、被害者自身の精神的苦痛に対して支払われるものです。
死亡慰謝料には、交通事故にあった本人の慰謝料と近親者の慰謝料があります。
そもそも慰謝料は、「目に見えない損害」であるため、その認定にあたっては、裁判官の裁量に委ねられています。
もっとも、裁判の公平性の観点から、判例によりある程度類型化されています。
死亡慰謝料は誰に発生するか
そもそも死亡慰謝料とは、その名の通り、被害者が死亡した場合に発生する慰謝料のことです。
死亡慰謝料は、一次的には死亡した被害者本人に発生すると考えられています。
しかし、死亡した被害者は加害者に請求することはできませんから、その慰謝料請求権を相続人が相続し、相続人が加害者に請求することになります。
また、民法711条によれば、近親者にも固有の慰謝料請求権が発生すると考えられています。
民法711条に定められている近親者の範囲は、「被害者の父母、配偶者及び子」です。
もっとも、実質的に見てこれらの列挙されている者と同視できる者(例えば、事実上の親子、内縁配偶者、親代わりに面倒を見てきた兄弟姉妹など)にも固有の慰謝料請求権が発生すると考えられています。
裁判基準における死亡慰謝料
交通事故における、損害賠償額の裁判基準が書かれた本として、弁護士は青本、赤い本と呼ばれる冊子を用います。
それぞれの冊子を用いた場合の死亡慰謝料の算定基準について説明いたします。
青本「交通事故損害額算定基準」25訂番
東京地裁の実務に基づいた賠償額の基準が示されており、参考になる判例が掲載されています。
一家の支柱の場合
2700万円から3100万円
一家の支柱に準ずる場合
2400万円から2700万円
その他の場合
2000万円から2500万円
一家の支柱とは、被害者家族の家計が被害者の収入によって生活をしている場合です。
一家の支柱に準ずる場合とは、家事の中心である主婦、養育を必要とする子を持つ母親、独身であるものの高齢者の父母や幼い兄弟姉妹、子を扶養または仕送りをしている人をいいます。
民法711条の「被害者の父母、配偶者、子」とそれに準ずる者の固有の慰謝料分も含まれています。
赤い本「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(2020年版)
算定基準とその解説を中心に、全国の参考となる裁判例が掲載されています。
一家の支柱の場合
2800万円
母親・配偶者の場合
2500万円
その他
2000万円から2500万円
「その他」とは、独身の男女、子供、幼児を言います。
死亡慰謝料の総額、民法711条の「被害者の父母、配偶者、子」とそれに準ずる者の固有の慰謝料分も含まれています。
関連:当センターの刊行物について(青本及び赤い本)|日弁連交通事故相談センター東京支部
死亡事故における慰謝料はいくらになる?
今回は、夫と妻、子ども2人で有職者の夫が交通事故により死亡した場合を想定して、
①自賠責保険の基準、②裁判基準の2つのベースで慰謝料を計算してみます。
①自賠責保険の基準で慰謝料を計算した場合
遺族として慰謝料を請求できるのは、被害者の父母(養父母を含む)、配偶者及び子(養子、認知した子及び胎児を含む)です。
自賠責保険の基準の慰謝料は以下のとおりとなっています。
本人の慰謝料 | 400万円 | |
近親者(両親、配偶者、子)の慰謝料 | 1人 | 550万円 |
2人 | 650万円 | |
3人 | 750万円 | |
扶養者がいる場合 | +200万円 |
したがって、今回のケース(夫と妻、子ども2人で有職者の夫が交通事故により死亡した場合)では、自賠責保険基準での慰謝料は、
※2020年3月31日よりも以前の交通事故については、本人慰謝料は350万円となります。
②裁判基準で慰謝料を計算した場合
他方で、裁判基準の慰謝料は、以下の金額が目安とされています。
一家の支柱 | 2800万円 |
母親、配偶者 | 2500万円 |
その他 | 2000万円〜2500万円 |
この金額には、近親者の慰謝料も含まれています。
上記表の「その他」には、独身の男女、子供や幼児、高齢者が含まれています。
先ほどのケースで夫が死亡した場合、裁判基準での慰謝料の目安は 2800万円となります。
③まとめ
自賠責保険基準で算定した場合の慰謝料:1350万円
裁判基準で算定した場合の慰謝料:2800万円
2800万円 – 1350万円
= 同じ死亡事故でも「1450万円の差」が生じる
「自賠責保険の基準」と「裁判基準」の説明については、こちらをご覧ください(「死亡事故の賠償項目」)。
④任意保険会社の基準
任意保険会社の基準は、各保険会社が設定している基準ですが、公開されていません。
したがって、具体的に金額を明示することはできませんが、ざっくりとしたイメージとしては、自賠責保険よりも高水準ですが、裁判基準には大きく及ばない水準といったイメージです。
死亡慰謝料の増額要素
慰謝料はこのように一定程度定額化されていますが、以下の場合には増額されることがあります。
加害者に故意もしくは、重過失がある場合
「故意」がある場合とは意図的に交通事故を起こし、被害者を負傷・死亡させた場合です。
「重過失」がある場合の例は以下のとおりです。
- 無免許運転
- ひき逃げ
- 酒酔い運転
- 著しいスピード違反
- ことさらに信号無視をした場合
- 薬物等の影響により正常な運転ができない状態で運転した場合
加害者に著しく不誠実な態度がある場合
加害者が、虚偽の事実を述べたり、不合理な弁解を繰り返しているような場合に増額が認められる傾向にあります。(出典元:「損害賠償額算定基準2020(令和元)年版」)
被害者に特別な事情がある場合
負傷した部位及びその程度、入通院期間、年齢・性別・職業・既婚未婚の別・社会的地位、資産・収入・生活程度、家庭内における地位・扶養関係などが考慮されます。
死亡慰謝料が増額された裁判例
判例 東京地判H15.3.27
加害者の運転手が、飲酒により相当程度酩酊した状態で高速道路を逆走するという危険な運転行為の結果、正面衝突して一家の支柱である被害者が死亡した事案で、合計 3600万円の死亡慰謝料が認められました。
判例 京都地判H27.3.9
加害車両に最大積載量の3.4倍を超える積荷が載せられていた上、最大積載量を偽るステッカーを貼るなど過積載の態様も悪質であったという事案で、死亡した単身者(男・19歳・大学生)につき、合計 2800万円の死亡慰謝料が認められました。
死亡事故の賠償項目