靭帯損傷による後遺症のポイント|弁護士が解説

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

靭帯(じんたい)は、骨と骨をつなぐ大切な役割をするものです。

靭帯を損傷した場合には、関節に不具合がおきて日常生活に支障が出ることもあり、後遺症が残ってしまうこともあります。

靭帯を損傷した場合の後遺症としては、機能障害(関節が動かしづらくなる)、痛みなどの神経症状の後遺障害、膝の動揺関節などがあります

このページでは、こうした後遺障害の内容や賠償について、詳しく解説をしていますので、ご参考にされてください。

靭帯損傷とは

靭帯損傷(じんたいそんしょう)とは、骨と骨をつなぐ靭帯を痛めてしまうことをいいます。

靭帯は、骨と骨をつないで固定する役割を果たしており、関節が変な方向に曲がらないように制限する働きがあります。

したがって、靭帯を損傷すると関節が不安定になるなどの症状がでることがあります。

 

複合靭帯損傷とは

膝関節図解

複合靭帯損傷(ふくごうじんたいそんしょう)とは、膝の4つの靭帯のうち、2つ以上を損傷した場合に、つけられる病名です。

膝関節には、前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)、後十字靭帯(こうじゅうじじんたい)、内側側副靭帯(ないそくそくふくじんたい)、外側側副靭帯(がいそくそくふくじんたい)の4つの靭帯が存在し、膝の安定性を図る働きをしています

膝関節の内側と外側にある側副靭帯は、膝関節が左右にズレるのを防ぎます。

膝関節の中にある前後の十字靭帯は、膝関節が前後にズレるのを防いでいます。

これらの靭帯のうち、2つ以上の靭帯を損傷すると膝が安定しなくなり、膝の運動機能に大きな障害が発生します

 

リスフラン靭帯損傷とは

リスフラン関節

リスフラン靭帯損傷とは、足の甲の部分の関節であるリスフラン関節の靭帯を損傷することをいいます。

リスフラン靭帯を損傷すると、足の甲が腫れて痛みが出ます。

症状が重いと歩くことも難しくなります。

 

 

靭帯損傷の症状や日常生活への影響

靭帯は、体のいたるところにあります。

靭帯を損傷すると、関節が不安定になったり、痛みが出るため、日常生活のいたるところで支障がでる可能性があります。

膝関節の靭帯を損傷した場合には、歩行が困難になることがありますし、手指の靭帯を損傷すると、痛みで細かい作業ができなくなってしまいます。

靭帯を損傷すると、仕事、家事、育児に大きな影響が出るため、早期に病院に行って適切な治療を受けることが大切です。

 

 

靭帯損傷の原因

交通事故や労災事故などが原因で、関節に大きな力が加わることで靭帯を損傷する可能性があります

例えば、自動車同士の交通事故の衝突によって、ダッシュボードに膝を激しく打ち付けた場合には、膝の靭帯が損傷する可能性があります。

また、労災事故で高いところから転落した際に、足の爪先から着地した場合にはリスフラン靭帯を損傷する可能性があります。

 

 

靭帯損傷の主な治療法

靭帯損傷の治療としては、損傷した靭帯の場所にもよりますが、保存療法か手術療法が考えられます。

保存療法としては、ギプスで固定したり、装具をつけるなどして安静にします。

靭帯の損傷がひどい場合には、靭帯を縫い合わせて修復するなどの手術が必要になります。

 

 

靭帯損傷の後遺障害認定の特徴と注意点

膝の靭帯損傷の後遺症

膝の靭帯を損傷した場合には、機能障害(関節が動かしづらくなる)、動揺関節(関節が不安定になる)、神経症状の後遺障害(痛み等が残る障害)が残ってしまうことがあります

 

機能障害

膝の靭帯は、足関節を安定させる重要な役割を担っており、損傷すると膝関節が動かしづらくなることがあります。

関節が動かしづらくなることを機能障害といいます

機能障害の程度によって、後遺障害の等級も変わってきます。

もっとも、膝関節の動かしづらさが残っていれば全て機能障害の後遺障害に認定されるわけではありません。

動かしづらさの原因となる損傷が、MRIなどで確認できることが必要となります。

複合靭帯損傷により、膝関節が動かしづらくなった場合の後遺障害は、以下の3つの等級になります。

等級 後遺障害の内容
8級7号 1下肢の3大関節の中の1関節の用を廃したもの
10級11号 1下肢の3大関節の中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
12級7号 1下肢の3大関節の中の1関節の機能に障害を残すもの

「下肢の3大関節」とは、股関節、膝関節、足関節(足首の関節)のことです。

8級7号の「用を廃した」とは、簡単に言うと、全く膝関節が動かない状態、あるいは、動いたとしても、健側(ケガをしていない方の膝関節)と比べて10%以下しか動かないような場合をいいます。

10級11号の「機能に著しい障害を残すもの」とは、膝関節の可動域(動く範囲)が、健側(ケガをしていない側の膝関節)と比べ1/2以下に制限されている場合のことです。

12級7号の「関節の機能に障害を残すもの」とは、膝関節の可動域(動く範囲)が、ケガをしていない側の膝関節と比べ3/4以下に制限されているような場合です。

 

動揺関節の後遺障害

前述したように、膝の靭帯は、4つの靭帯によって関節の安定性を保っています。

したがって、複数の靭帯が損傷した場合には、その安定性を保てなくなることがあるのです。

膝関節の安定性を保てなくなった場合を動揺関節といって、正常な場合に比べて関節が大きく動いたり、通常動かない方向に動くなどの症状がでます

こうした動揺関節の後遺障害は、明確に後遺障害等級表に記載されているわけではないですが、準用という形で以下の後遺障害に認定される可能性があります。

等級 後遺障害の内容
8級相当 常に硬性補装具を必要とする場合
10級相当 時々硬性補装具を必要とする場合
12級相当 過激な労働等の際以外には硬性補装具を必要としない場合

硬性補装具(こうせいほそうぐ)は、不安定になった膝関節の機能を補助してくれる器具です。

動揺関節として、後遺障害を主張する場合には、動揺関節になっていることを証明しなければなりません。

証明にあたっては、まずMRIなどから、膝の靭帯が損傷していることを示さなければなりません。

さらに、その損傷により、膝関節が不安定になっていることを証明しなければなりません。

この証明は、ストレスXPにより証明することになります。

ストレスXPとは、手や器具を利用して膝に圧力をかけ、あえて骨のズレた状態にしてレントゲンを撮影するものです。

その他としては、硬性補装具を使用しなさいという医師の指示があることも必要になります。

 

神経症状の後遺障害

膝関節に機能障害や動揺関節は生じなかったものの、痛みは残ってしまったという場合には、以下の後遺障害が認定されることがあります。

等級 後遺障害の内容
12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号 局部に神経症状を残すもの

どちらも、痛みや痺れ(神経症状)が残った場合の等級です。

12級13号の場合は、レントゲンやMRI、CTなどで、膝関節に異常な状態が確認され、痛みや痺れについて医学的に証明できれば認定されます。

14級9号は、医学的に証明までは必要ありませんが、事故態様や規模、治療経過などから、痛みや痺れが残っていることが医学的に説明できれば、認定されます。

 

足首の靭帯損傷の後遺症

足首の靭帯を損傷した場合、足首の関節の機能障害(関節が動かしづらくなる障害)、痛みなどの神経症状が残る後遺障害が残ってしまう可能性があります。

後遺障害の内容としては、上記した膝の靭帯の損傷の場合と同じです。

機能障害の場合は、8級7号、10級11号、12級7号の可能性があります。

痛みが残る神経症状の後遺障害は、12級13号、14級9号の可能性があります。

 

足の指の靭帯損傷の後遺症

足の指の靭帯を損傷した場合には、足の指の関節の機能障害、痛みなどの神経症状が残る後遺障害が残る可能性があります。

足の指の機能障害の等級と内容については、下表のとおりです。

等級 後遺障害の内容
7級11号 両足の全ての指が用廃したもの
9級15号 片方の全ての指が用廃したもの
11級9号 片方の足の親指を含んで2指以上の足の指を用廃したもの
12級12号 片方の足の親指又は親指以外の4指が用を廃したもの
13級10号 片方の足の第2の足指(親指のとなりの指)を用廃したもの、第2の足指を含み2つの指が用廃したものもの、第3の足指(真ん中の指)以下の指3本が用廃したもの
14級8号 片足の第3の指(真ん中の指)以下の1本又は2本の足指を用廃したもの

ここでいうところの「用廃」「用を廃した」とは、簡単にいうと足の指の関節が2分の1以下に制限される場合をいいます。

足指の靭帯を損傷した場合の神経症状(痛みなど)の後遺障害については、上記した膝の靭帯の神経症状の後遺障害と同じく、12級13号、14級9号に認定される可能性があります。

 

肘の靭帯損傷の後遺症

肘の靭帯には、内側側副靭帯(ないそくそくふくじんたい)、外側側副靭帯(がいそくそくふくじんたい)、橈骨輪状靭帯(とうこつりんじょうじんたい)、があります。

これらの靭帯を損傷した場合には、関節が動かしづらくなる機能障害、痛みなどの神経症状の後遺障害が残る可能性があります

肘の関節の機能障害の等級と内容については、下表のとおりです。

等級 後遺障害の内容
8級6号 肘関節の用を廃したもの
10級10号 肘関節の機能に著しい障害を残すもの
12級6号 肘関節の機能に障害を残すもの

ここでいうところの「用を廃したもの」とは、関節が全く動かないか、又は、それに近い状態のことを言います。

「著しい障害を残すもの」とは、関節の可動域が健側(ケガしていない側)の可動域角度の1/2以下に制限されている場合をいいます。

「肘関節の機能に障害を残すもの」とは、関節の可動域が健側(ケガしていない側)の可動域角度の3/4以下に制限されている場合をいいます。

肘の靭帯を損傷した場合の神経症状(痛みなど)の後遺障害には、上記した膝の靭帯と同じく、12級13号、14級9号に認定される可能性があります。

 

 

靭帯損傷の慰謝料などの賠償金

靭帯を損傷した場合の主な損害項目としては、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益があります。

これらの損害を計算するにあたっては、自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判基準)があります。

この中で弁護士基準が最も高い基準であり、適切な基準なので、以下では弁護士基準を前提として説明しています。

 

入通院慰謝料

入通院慰謝料は、入院、通院の期間によって決まります。

入通院期間に応じた金額が形式化して決まっています。

例えば、通院のみで3ヶ月だと73万円、6ヶ月だと116万円です。

入通院慰謝料の金額の概算は、下記ページの交通事故賠償金計算シミュレーターにて計算できますので、ご活用ください。

 

後遺障害慰謝料

靭帯を損傷して後遺障害に認定された場合には、後遺障害慰謝料を請求することができます。

靭帯損傷による後遺障害慰謝料の一覧は以下のとおりです。

等級 後遺障害慰謝料額
7級11号 1000万円
8級6号、7号、8級相当 830万円
9級15号 690万円
10級10号、11号、10級相当 550万円
11級9号 420万円
12級6号、7号、12号、13号 290万円
13級10号 180万円
14級8号、9号 110万円

 

逸失利益

逸失利益とは、靭帯の損傷により後遺障害が残り、労働する能力が落ちてしまったことが原因となり収入が減ることに対する補償です。

逸失利益は、以下の計算式で計算します。

基礎収入 ✕ 労働能力喪失率 ✕ 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

逸失利益は計算方法が複雑になりがちです。

金額の概算を計算されたい場合には、以下のページの交通事故賠償金シミュレーターをご活用ください。

 

 

靭帯損傷で適切な賠償金を得る5つのポイント

靭帯損傷で適切な賠償金を得る5つのポイント

早期にMRI検査を行う

靭帯の損傷は、レントゲンでは分かりません

靭帯の損傷を発見するにはMRIを撮影する必要があります。

事故当初は、捻挫と診断されていたものの、痛みが治らないのでMRI検査をして見ると靭帯が損傷していたということもあります。

靭帯の損傷の発見が遅くなると、事案によっては事故が原因で靭帯を損傷したかどうか分かりづらくなり、保険会社から争われる可能性があります。

したがって、交通事故や労災事故で痛みがなかなか引かない場合には早めに医師に相談の上、MRIを撮影してもらうようにしましょう。

 

可動域の検査を結果を後遺障害診断書にきさいしてもらう

靭帯を損傷した場合には、関節に機能障害が残ってしまうことがあります。

機能障害が残った場合には、必ず可動域検査の結果を後遺障害診断書に記載してもらいましょう

後遺障害の等級の審査は、後遺障害診断書に記載されたことしか審査されません。

したがって、検査結果が記載されていないと可動域制限はない前提で審査されますので、十分に注意されてください。

また、膝関節の動揺関節についてもストレスレントゲンの撮影とその結果を後遺障害診断書に記載してもらうことを忘れないようにしましょう。

 

適切な賠償金の金額を算定する

交通事故の賠償基準は、自賠責保険基準、任意保険基準、弁護士基準(裁判基準)の3つがありますが、最も高い基準である弁護士基準が適切な基準です。

したがって、弁護士基準で金額を算出して保険会社と交渉すべきでしょう。

弁護士基準での賠償金の概算の計算は、以下のページの賠償金の計算機をご活用ください。

 

加害者側が提示する示談内容は専門家に確認してもらう

加害者側としては、できる限り賠償金の金額を抑えるために、自賠責保険基準や任意保険基準で賠償額を計算して提示してきます。

こうした提示に対しては、弁護士基準で賠償額を計算して増額の交渉をすべきです。

ただ、被害者個人で弁護士基準での解決は難しいため、保険会社から賠償の提示があった場合には専門の弁護士に相談して、見通しを聞いた上で、交渉を依頼されることを検討されてください。

 

後遺障害に詳しい弁護士に早い段階で相談する

後遺障害に詳しい弁護士に早めに相談することで、不要なトラブルを防ぐことが期待できます

例えば、靭帯損傷の場合、上記したように事故から時間が経過しすぎると靭帯損傷と事故との関係性を保険会社から争われる可能性があります。

しかし、早めに弁護士に相談しておくことで、MRI撮影のアドバイスを受けることができ、こうしたトラブルを避けることができる可能性が高まります。

 

 

まとめ

靭帯とは、骨と骨をつなぐもので体のいたるところにあります。

交通事故や労災事故により靭帯を痛めると日常生活に支障が出て後遺症が残ってしまう可能性があります。

靭帯を損傷した場合には、医師の指示にしたがって、しっかりと治療した上で、適切な補償を受け取るべく、専門の弁護士に相談されることをおすすめします。

当事務所では、事故案件に専門特化した人身傷害部の弁護士が交通事故や労災事故の相談を受けており、実際の事件処理についても最後まで専門の弁護士が対応します。

専門の弁護士とのご相談については、面談での相談はもちろんのこと、オンライン相談(LINE、ZOOM、フェイスタイムなど)もお受けしており、全国対応していますので、お気軽にお問い合わせください。

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