交通事故の治療に有給休暇を使用。休業損害は請求できるか?

執筆者:弁護士 鈴木啓太 (弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士)

交通事故の治療のために有給休暇を取得した場合には、その取得日数分の休業損害を請求することができます。

 

有給休暇を取得した場合も休業損害を請求できる

会社員の場合、交通事故による入院・通院のため会社を休まざるを得ないときに、有給休暇を使って休みをとることもあるでしょう。

しかし、有給休暇を使った場合は、会社から給与が支払われるので、減収がなく、支給される給与は減りません。

休業損害は、事故によって会社を休んだことで減収した場合に認められる損害であるため、有給休暇を取得した場合には、休業損害が認められないとも思われます。

しかし、交通事故に遭わなければ、有給休暇を他のために自由に使用することができたはずです。

また、有給休暇は、労働者の権利として財産的な価値があるものですから、交通事故の治療のために有給休暇を使用した場合には、財産的損害が発生したともいえます。

したがって、ケガの治療のため有給休暇を取得した場合には、休業損害を請求することができるのです。

過去の裁判例でも、以下のような裁判例があります。

土木建設会社部長が、使用した有給休暇について、自分のために自由に使用できる日を事故による傷害のために欠勤することになった日に取得したとして、休業損害算定の基礎日数としました(神戸地判H13.1.17)。

このように、交通事故による治療のために有給休暇を使用した場合には、休業損害として請求することができます。

もっとも、治療期間中に使用した有給休暇であっても、それが私的な理由で取得したものであれば、休業損害として請求することはできません。

交通事故から相当期間経過してから、有給休暇の使用による休業損害を請求するような場合には、本当に治療のために必要であったのか保険会社から争われることがあります。

 

 

有給休暇を取得した場合の休業損害の計算方法

休業損害は、以下の計算式で算出します。

有給休暇を取得した日数は、休業日数としてカウントして請求することになります。

 

 

休職によって有給が取得できなかった場合の損害は?

有給休暇は、入社してから6ヶ月が経過し、かつ、その期間の全労働日の8割以上出勤した場合に付与されるものです(労働基準法39条)。

交通事故によって、長期間にわたり会社を休まざるを得なくなった場合には、8割以上の出勤の条件を満たすことができず、有給休暇の付与を受けることができない可能性があります。

上記したように、有給休暇は、労働者にとって財産的に価値あるものですから、交通事故の治療が原因で付与されなかったとすれば、やはり財産的損害があるとして賠償が認められるべきです。

この点について、裁判例でも休業損害として賠償を認めたものがあります。

判例 休業損害として賠償を認めた裁判例34歳の男性会社員が、事故が原因で勤務を293日休みました。

出勤日数が全労働日の8割未満だったことを理由に事故翌年度発生分、翌々年度発生分各10日間の有給休暇が減少しました。

この減少分を休業損害として認めました。

【大阪地判H20.9.8】

このように、交通事故によって有給休暇が付与されなかった場合も、その付与されなかった日数分を休業損害として請求できる可能性がありますので、請求漏れがないように注意が必要です。

 

 

交通事故が原因の有給休暇の休業損害額

休業損害は、交通事故により、仕事を休まざるを得なくなり、収入が減少した場合に、その減少した収入を補填するものです。

過去の収入状況を参考にして、収入の1日単価を算出し、それに休業日数を乗じることによって計算します。

収入の1日単価は、サラリーマンであれば事故直近3ヶ月の給料の金額を参考にし、個人事業主であれば、交通事故前年の確定申告書を参考にして算出します。

休業損害の具体的な計算方法は、以下の計算式で算定されることになります。

 

 

交通事故が原因の有給休暇と休業損害

前述したように、休業損害は、仕事を休んだことで減収した場合の補償です。

交通事故による怪我の治療のため、被害者が有給休暇を取得した場合、会社を無給で休んだ場合と異なり、被害者は会社から給与を受け取ることができます。

そのため、被害者には現実的な減収がないので、休業損害は発生しないことになるように思えます。

しかしながら、有給休暇は交通事故がなければ、本来怪我の治療以外の目的で取得することができたはずです。

したがって、ケガの治療のために取得した有給休暇の日数は休業日数に含めて損害として認定されることになります。

つまり、有給休暇には財産的な価値があるとされているのです。

休業損害を請求する際に、会社に作成してもらう休業損害証明書の中にも「有給休暇」の日数を記載する欄があります。

その欄に、交通事故が原因で有給休暇を取得した日数を記載して、休業損害として請求することになります。

 

 

休業損害として認められる範囲

注意する必要があるのは、休業損害として認められるのは、あくまで、交通事故が原因で有給休暇を取得する場合です。

したがって、治療期間中に有給休暇を取得していたとしても、それが個人的な理由による場合には、休業損害として認められません。

交通事故発生から相当期間経過してからの有給休暇の取得や、有給休暇を取得していない日に通院していない場合などは、保険会社から、交通事故との関連性を争われる可能性があるので注意しなければなりません。

 

交通事故での欠勤による降格、昇給・昇格遅延について

交通事故での治療のための欠勤を理由に現在の役職から降格されたり、本来あるべき昇給・昇格がなかったり、昇給・昇格が延期された場合、本来支給されるべき給与と実際に支給されている給与の差額を損害として認めた裁判例もあります(大阪地判S62.10.14)。

もっとも、降格や昇格、昇給は、様々な事情を勘案して会社の経営判断として実行されます。

したがって、こうした判断は交通事故以外の原因も影響している可能性もあるため、損害として請求するには、交通事故が原因で不利益な取り扱いを受けたことを明確に証明する必要があります。

会社の就業規則などを証拠として、具体的に主張立証する必要があるでしょう。

 

賞与の不支給や減額

賞与は、対象期間の従業員の就労の状況を踏まえて支給金額を算定する会社は多くあります。

したがって、交通事故が原因とはいえ、欠勤したことが不利益に評価されて賞与が減額されることがあります。

こうした場合も、交通事故が原因で賞与を減額されたことを証明することができれば、その減額分を損害として請求することができます。

多くの場合では、会社に賞与減額証明書を作成してもらい、保険会社に請求することで支払いを受けることができます。

 

 

交通事故による休業のため解雇された場合

交通事故による怪我の治療のための休業が原因となって、被害者が勤務先を解雇された場合、被害者が無職となった以降も、現実に就業が困難な期間を休業期間とします。

被害者が就業可能になるまで怪我から回復してもその後就職できなかった場合、現実に再就職できたときまたは転職が可能になるまでの相当期間のどちらかの短い期間を休業期間として認められる余地があります。

裁判例にも、試用期間中に交通事故による怪我の治療のため休業した被害者が会社を解雇された場合、休業損害を認めた事例があります(大阪地判H2.4.26)。

 

 

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