年少者が死亡した場合の逸失利益はどのように算定方法するのですか?
将来の職業や収入額、稼働可能年数が明確ではない幼児・年少者は、賃金センサスを参考にし交通事故の逸失利益を算定します。
交通事故の死亡による逸失利益の算定式は、以下の式を使います。
死亡による逸失利益
基礎収入額 ×( 1 - 生活費控除率)×( 死亡時から67歳までのライプニッツ係数 - 18歳未満の者に適用するライプニッツ係数 )
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基礎収入額
幼児・年少者は、逸失利益を算定する基礎となる収入がありません。
したがって、逸失利益を算定は本来不可能となります。
しかし、最高裁は、以下のように判事しています。
幼児・年少者の場合
判例 幼児の逸失利益についての裁判例
事故により死亡した幼児の得べかりし利益を算定するに際しては、裁判所は、諸種の統計表その他の証拠資料に基づき、経験則と良識を活用して、できるだけ客観性のある額を算定すべきであり、一概に算定不可能として得べかりし利益の喪失による損害賠償請求を否定することは許されない。
【最判:昭和39.6.24】
今までは、幼児・年少者の基礎収入額に関する資料は、賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、男女別の全年齢平均賃金額を用いられることが多かったです。
もっとも、最近では、男女の賃金格差を是正するという観点から、男女計という男女の区別をしない全労働者の平均賃金を用いる裁判例も増えてきています。
学生の場合
ちなみに、大学生になっていない場合でも、大卒の賃金センサスを基礎収入として認められる場合があります。
大学進学の蓋然性のある高校生の場合に認められています。
判例① 男性大卒全年齢平均の賃金センサスを基礎収入とした裁判例
交通事故により死亡した高校2年生(男・17歳)につき、高校1年時の成績は優れなかったものの、
- 勉学に対する意欲があったこと
- 大学へ進学するのを当然とする家庭環境であったこと(両親大学卒、姉2人国立大学卒)
- 被害者も担任教員に大学進学の意思を明確にしていたこと
などから、賃金センサス男性大卒全年齢平均を基礎収入としました。
【東京高判:平成15.2.13】
判例② 全労働者大卒全年齢平均の賃金センサスを基礎収入とした裁判例
交通事故により死亡した高校生(女・17歳)につき、
- 在籍していた高校が中高一貫の進学校であったこと
- 被害者は学業成績が優秀であり、高校2年生の卒業式で在校生を代表して送辞を述べていたこと
などから、賃金センサス全労働者大卒全年齢平均を基礎収入とした。
【京都地判:平成23.3.11】
生活費控除率
交通事故被害者が不幸にも死亡してしまった場合、生活費は発生しなくなります。
逸失利益の算定にあたっては、生活費分を控除します。
- 男性(独身・幼児等を含む) 50%
- 女性(主婦・独身・幼児等を含む) 30%
ですが、男女差のバランスとるため、0.45%の生活費控除率を使う場合があります。
就労可能年数に対応するライプニッツ係数
就労可能年数は49年です。
中間利息を控除するため、ライプニッツ係数を乗じます。
ライプニッツ係数は、赤い本の「18歳未満の者に適用する表」の計算式を使用します。
なお、民法改正の影響で、令和2年3月31日までの事故と、令和2年4月1日以降の事故では、用いるライプニッツ係数が異なります。
逸失利益の計算例
具体例 12歳の女子が交通事故で死亡した場合
- 基礎収入:全労働者の平均賃金497万2000円(平成30年賃金センサス)
- 生活費控除率:45%(男女差のバランスとるため)
- 就業可能年数:49年
- 18歳未満の者に適用する表よりライプニッツ係数:
- 令和2年3月31日までに発生した事故の場合・・・13.558
- 令和2年4月1日以降に発生した事故の場合・・・21.357
以下が、12歳女子年少者の逸失利益となります。
497万2000円 ×( 1 − 0.45 )× 13.558 = 3707万5706円
497万2000円 ×( 1 − 0.45 )× 21.357 ¬= 5840万2852円
このように、死亡事故による逸失利益の算定は複雑な計算となるので専門家である弁護士に相談することをお勧めします。