物損事故では慰謝料は認められない?認められる場合の慰謝料は?
物損事故では、原則慰謝料は認められません。
しかし、例外的に物損に対し慰謝料が認められた例があります。
ただ、慰謝料の金額は、数万円~数十万円くらいでした。
慰謝料の認められる根拠
民法710条は「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれかであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない」と規定されています。
よって慰謝料が請求できる場合に人身事故でも物損事故でも制限はなさそうです。
しかし、実務上は交通事故で物が破損した場合、破損したものに対し賠償されれば物を壊された被害者の精神的な苦痛も癒されるので慰謝料は発生しないとされています。
ただし、交通事故によって物だけではなく、別個の権利・利益が侵害されたと評価しうるような場合には、例外的に慰謝料が認められることがあります。
物損の慰謝料に関する裁判例
慰謝料が肯定された裁判例と否定された裁判例をいくつか紹介します。
自動車
判例 メルセデスベンツの車両損害の慰謝料を請求した場合
被害者の愛情利益や精神的平穏を強く害するような特段の事情がなければ、慰謝料は認められないとして、当該事案の下では特段の事情が存在しないことを理由に慰謝料を認めませんでした。
【東京地判H1.3.24】
動物・ペット
判例 飼い犬が自動車に轢かれて死亡したが、加害者が責任を否認した場合
判決は被害者にとっての特別な主観的・精神的価値だけでなく加害者の事故後の態度も考慮し、慰謝料2万円を認めました。
【東京地判S40.11.26】
判例 8歳雄のラブラドールレトリバー(購入価格6万5000円)が事故によって、第二腰椎圧迫骨折、後肢麻痺、排水障害の症状を負った場合
飼い主夫婦に対して合計40万円の慰謝料を認めました。
【名古屋高判H20.9.30】
判例 競走馬は交通事故で死亡した場合
競走馬は売却される予定のある商品という理由から、慰謝料を否定しました。
【札幌高判S56.4.27】
墓石
判例 霊園内で墓石に衝突し、骨壺が露出した場合
先祖、個人が眠る場所として強い敬愛追慕の念の対象となるという特殊性から慰謝料10万円を認めました。
【大阪地判H12.10.12】
芸術品・美術品
判例 陶芸家の自宅のコンクリート壁に自動車が衝突し、壁が倒れ、陶芸家の作品が破損した場合
壊れた作品は、陶芸家として認められた作品で被害者にとっての特別な主観的・精神的価値があり、作品の具体的な金額を認定できないとして慰謝料100万円の慰謝料を認めました。
【東京地判H15.7.28】
住宅損傷
判例 大型貨物自動車が民家へ飛び込んだ場合
被害者の生活利益、社会的信用等の利益を侵害したとして慰謝料が認められました。慰謝料額は5~60万円くらいでした。
【東京地八王子支S50.12.15、岡山地判H8.9.19など】
物損に対する慰謝料が認められるのは、例外的な場合です。