無職の人が交通事故で死亡した場合の逸失利益の算定方法は?
死亡逸失利益は、以下の式で計算します。
目次
基礎収入額
たしかに、事故当時無職だった方は、現実の収入が存在しないことから、逸失利益の計算における基礎収入を観念できないとも思えます。
もっとも、労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性があると認定される場合は、無職者であっても逸失利益が認められる可能性があります。
この場合、原則として失業前の収入が基礎収入とされます。
失業前の収入が平均賃金以下だったら?
失業前の収入が平均賃金以下であっても、
- 平均賃金が得られる蓋然性がある場合
- 就労可能性が認められる場合
男女別の賃金センサスによって基礎収入が算定されることになります。
株式からの配当や不動産は基礎収入?
株式からの配当や不動産から所得は労働対価ではないので基礎収入とはしません。
無職者の死亡逸失利益に関する裁判例
判例

【被害者】
男性、無職、大卒、死亡時年齢24歳
【判決内容】
- 大学卒業後、会計事務所に就職していたこと
- 税理士の資格を得るための勉強に専念するため、会計事務所を退職したこと
などの事情から、賃金センサス男性大卒全年齢平均を基礎収入としました。

【被害者】
男性、無職、大卒、死亡時年齢55歳
【判決内容】
- 本件事故当時、被害者は体調を崩して前職の会社を退職して、ハローワークにて求職中であったこと
- 被害者の事故前約5年間の給与収入は、大学・大学院卒男性の賃金センサスの6割以下であったため、基礎収入は、大学・大学院卒男性の賃金センサスを用いることはできないこと
- 基礎収入は、退職する直前の年収(約435万円)を基準とすべきだが、事故当時、被害者の就職先が決まっていなかったことから、約435万円よりも若干低い額を認定すべきであること
などの事情から、5年間は420万円、8年間は320万円を基礎収入としました。

【被害者】
男性、無職、高卒、死亡時年齢18歳
【判決内容】
- 高校卒業後勤務していた会社を退職し、事故翌日からアルバイトを開始予定だったこと
- 18歳という若者であるため、将来どのような職に就くかわからないこと
などの事情から、賃金センサス男性学歴計全年齢平均を基礎収入としました。
逸失利益が認められない場合
以下の場合は、就労可能性が認められないため逸失利益にはなりません。


生活費控除率
被害者が不幸にも死亡してしまった場合、生活費は発生しなくなります。
逸失利益の算定にあたっては、生活費分を控除します。
生活費控除率は、家族関係、性別、年齢に照らして以下の割合となります。
一家の支柱 | 被扶養者が1名の場合 40% 被扶養者が2名以上の場合 30% |
男性(独身・幼児等を含む) | 50% |
女性(主婦・独身・幼児等を含む) | 30% |
就労可能年数
就労可能年数は原則67歳 – 死亡時年齢です。
67歳を超える方の場合は、簡易生命表の平均余命の2分の1が就労可能年数となります。
ライプニッツ係数
逸失利益は、事故に遭わなければ被害者が将来にわたって得られたはずの利益ですが、その金額をそのまま受け取ると、本来受け取ることができる時点までに発生する利息分も被害者が取得することになります。
ライプニッツ係数は、このような中間利息を控除して、一時金に変算するのに用いられる係数です。
なお、民法改正の影響で、令和2年3月31日までの事故と、令和2年4月1日以降の事故では、用いるライプニッツ係数が異なります。
無職者の逸失利益の計算例
(計算例)45歳男性(独身、就職活動中)の方の場合
年齢 | 45歳男性(独身、就職活動中) |
---|---|
基礎収入 | 失業前の年収350万円 |
生活費控除率 | 50% |
就業可能年数 | 67歳-45歳=22年 |
ライプニッツ係数 | 令和2年3月31日までに発生した事故の場合・・・13.163 令和2年4月1日以降に発生した事故の場合・・・15.937 |
以上より
令和2年3月31日までに発生した事故の場合
350万0000円 ×(1-0.5)× 13.163 = 2303万5250円
令和2年4月1日以降に発生した事故の場合
350万0000円 ×(1-0.5)× 15.937 = 2788万9750円
が、逸失利益になります。