損害賠償の消滅時効

人身障害事故によって、損害を被った被害者がすぐに加害者に賠償請求を行わず、長期間が経過した場合、賠償請求ができなくなるリスクがあります。

ここでは、このような消滅時効や期間制限の問題について、解説いたします。

 

不法行為の場合の消滅時効

交通事故など、他人から故意あるいは過失によってケガをさせられたり、財産を侵害されたような場合には、不法行為(民法709条)が成立します。

不法行為による損害賠償請求権は、「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時」から3年で消滅時効にかかり請求ができなくなってしまうのが原則です。

また、不法行為があった時から、20年が経過した場合にも請求することができなくなります(民法724条)。この20年の期間制限を除斥期間と言います。

 

【3年の消滅時効】

3年の消滅時効は短いので、起算点となる「損害及び加害者を知った時」は、裁判においては厳格に解釈される傾向です。

① 「加害者を知った時」とはいつの時点か

「加害者を知った時」とはどの時点を指すのか、この文言のみでは明確ではありません。

この点、判例(最判昭和48年11月16日民集27.10.1374)では、「加害者を知った時」とは、「加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもとに、その可能な程度にこれを知った時」を意味するとされています。

つまり、加害者の氏名・住所が分かれば、よほど特殊な事情がない限りは、賠償請求することは可能なので、加害者の氏名・住所が分かった時点で「加害者を知った時」として消滅時効が進行すると考えた方がよいでしょう。

ひき逃げ事件のようなケースは、加害者をすぐに知ることは困難ですが、そうでない場合は、事故発生時点で、相手方の氏名や住所を確認することが可能です。

ですから、交通事故事案では、基本的には事故発生時点で「加害者を知った時」と言えるでしょう。

なお、交通事故の場合、事故の当事者は、事故が発生したことを警察に報告しなければなりません。

警察に事故の報告を行うと、事故が発生したことを証明する交通事故証明書が作成されます。

この交通事故証明書には当事者の氏名・住所・年齢などが記載されます。

事故当事者であれば、一定の手続きを行えば比較的簡単に事故証明書は取得できるので、もし、事故当日に相手の氏名住所を聞き忘れていたとしても、交通事故証明書を取得することで相手の氏名、住所を確認することができます。

 

②損害を知った時

消滅時効を規定した民法724条には、「損害及び加害者を知った時」に消滅時効が進行することが規定されています。

つまり、消滅時効が進行するのは、加害者のことを知った時だけでなく、損害を知った時からということになります。

交通事故の場合、消滅時効の起算点は、以下のように考えられています。

  • 物損(車や自転車、洋服等の損害)については → 事故発生日
  • 傷害による損害(治療費や傷害慰謝料など)については → 事故発生日
    ※傷害による損害の場合、実務上、治癒した日や症状固定日を起算点とすることもありますが、時効の起算点について加害者と争いになる可能性もあるので、事故発生日と思っておいたほうが良いでしょう。
  • 死亡による損害(死亡慰謝料、逸失利益、葬儀費用など)については → 死亡日
  • 後遺障害による損害(後遺障害慰謝料、後遺障害逸失利益など)については → 症状固定日

 

予想し得ない後遺症が発症した場合

交通事故で負傷した被害者が、損害賠償請求訴訟を提起して1000万円の賠償金を手にし、事故から3年以上が経過した後、予想外の後遺症が発症して重度の障害が残った場合、さらに賠償請求できるかという問題があります。
このような事案で、当初予想もし得なかったような後遺症が生じた場合は、当初の損害とは別に賠償請求でき、時効も別個に進行すると判断している判例があります(最判昭42.7.18)。
しかし、事故から相当期間が経過した後に発症した傷病は、その経過した時間が長くなればなるほど、事故とは関係のない発症ではないのかという疑いが強くなっていきます。
理屈としては、判例のようなケースもあり得ますが、実際にはよほど特殊な事情がない限りは、事故との因果関係を証明するのは難しいでしょう。

 

時効の中断

上記したように消滅時効の起算点は考えられていますが、進行している時効は中断することができます。

  • 裁判上の請求
    時効の中断事由の一つとして、裁判上の請求があります。
    裁判上の請求で最も分かりやすのは訴訟提起です。
    訴訟提起すれば、時効の進行は中断しますが、訴訟を取り下げると時効の中断の効果はなくなるので注意が必要です。
    また、和解及び調停の申し立てでも同様に時効中断の効力が生じます。
  • 催告
    裁判上の請求ではなく、当事者が相手に支払いを催告することでも時効は中断します。
    但し、この場合、催告をした後6ヶ月以内に訴訟提起などの裁判上の請求をしなければ、時効の中断の効力は生じませんので、注意しなければなりません。
    催告をする場合には、催告を行なったことの証拠を残すために、内容証明で相手に通知すべきです。
  • 差押え、仮差押え、仮処分
    差押え、仮差押え、仮処分と行った手続きを行った場合にも時効は中断します。
  • 債務の承認
    加害者が、賠償責任があることを認めている場合は、時効は中断します。
    例えば、交通事故の治療費や休業損害を支払いは、賠償責任があることを認めている行為です。
    したがって、その支払いがなされた時点で、時効は中断します。
    ただ、漠然と賠償責任を認めていることを口頭で言っているだけでは、後々、争われると時効中断が認められない可能性があります。
    加害者が、賠償責任を認めていることを証明できるようにしておく必要があります。

 

【20年の除斥期間】

裁判例は、20年の期間制限について、時効ではなく、除斥期間と判断しています。

除斥期間というのは、時効と異なり、中断がなく、当事者の主張(時効の援用)も必要としません。

すなわち、加害行為の時から20年が経過すると、賠償請求権が消滅するという概念です。

ただし、20年の経過によって、絶対的に請求を認めないとすると、正義・公平の理念に反する場合もあります。

そのような場合、例外的に除斥期間の停止を認める裁判例もあります(最判平10.6.12)。

 

債務不履行に基づく損害賠償請求の消滅時効

不法行為の場合と異なり、債務不履行に基づく損害賠償請求権の時効は、10年です(民法167条1項)。

したがって、不法行為に基づく損害賠償請求権が時効により消滅した場合でも、債務不履行に基づく損害賠償請求が可能な場合があります。

例えば、労災事故や医療事故において、加害者に安全配慮義務違反があった場合、債務不履行に基づく賠償請求が可能です。

 

国家賠償法に基づく損害賠償請求の消滅時効

加害者が国や公共団体の場合、国家賠償法に基づく損害賠償請求が可能です。

この場合の消滅時効は、不法行為の場合と同様です。

 

製造物責任に基づく損害賠償請求

欠陥商品による人身障害事故の場合、製造物責任に基づく損害賠償請求が可能です。

製造物責任法は、「被害者又はその法定代理人が損害及び賠償債務者を知った時から3年間行わないときは、時効によって消滅する」また「その製造業者等が当該製造物を引き渡した時から10年を経過したときも、同様」であると規定しています(5条1項)。

したがって、3年の方は不法行為と同じですが、10年の期間制限は不法行為と異なることになるので注意が必要です。

ただし、10年の期間制限は、「身体に蓄積した場合に人の健康を害することとなる物質による損害又は一定の潜伏期間が経過した後に症状が現れる損害については、その損害が生じた時から起算」されます(5条2項)。

消滅時効や期間制限については、個々の具体的なケースに照らして判断する必要があります。

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なぜ交通事故は弁護士に依頼すべきなのか?

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